事業譲渡の際に債務はどうなる?契約前に押さえたいポイントを解説

ノウハウ 2023/5/30

事業譲渡の際に債務はどうなる?契約前に押さえたいポイントを解説

事業譲渡を考えている売り手の会社(譲受会社)や買い手の会社(譲渡会社)方は、事業譲渡時にローンや売掛金などの債務がどうなるか、気になりますよね。

当記事では、事業譲渡契約を結ぶ前に押さえておきたいポイントとして、債務の基本から買い手側に債務の弁済責任が発生するケースまで解説します。

なお、事業譲渡の基本は「事業譲渡とは?譲渡の際の注意点についてわかりやすく解説」を、事業譲渡を行う際の手続きの流れなどは「事業譲渡の手続きとは?必要な費用も解説」をご覧ください。

事業譲渡の債務を譲受会社は原則引き継がない

事業譲渡を行った際、商号や屋号を継続使用するケースや特別な取り決めがあるケースでない限り、事業を譲り受ける側の「譲受会社」が、事業を渡す側の「譲渡会社」の債務を引き継ぐことはありません。

参照:会社法 第二十二条(譲渡会社の商号を使用した譲受会社の責任等)、 第二十三条(譲渡会社の商号を使用した譲受会社の責任等)|e-Gov

そもそも債務とは?

債務とは、ある人が別の人に対してお金を借り、返す義務を負うことを指します。

【債務の具体例】

種類 概要
借金 個人や金融機関から借りるお金の総称。融資・ローンも借金に含まれる。
融資・ローン 家や車の購入など特定の目的別に企画・提供している金融機関の枠に申し込み、審査を経て借りるお金。今後の事業計画や、毎月定額を支払うなどの返済計画を伴う。
売掛金 商品やサービスを提供した後に受け取る代金。
未払金 請求書や領収書などで確認できる未払いお金。
借入金 借金や融資・ローンなど「借りているお金」の総称。
負債 会社の借金のこと。債務の別称。

一般的に、お金を貸す側(債権者)は、お金を借りる側(債務者)に対し、利息を付け、返済方法を取り決めた上でお金を貸します

債権者は、予定通りに返済しない債務者に対しては、法的措置をとることができます。

事業譲渡の際、債権者の承諾なしに、譲受会社に債務を引き継がせることは譲渡会社側の債務逃れとみなされ、認められません。

債務逃れとは、不当に返済する義務を放棄することを指し、詐欺罪や横領罪など法的責任を問われる可能性があります。

事業譲渡の際に債務逃れと認定されるかどうかはケースバイケースですが、譲渡会社が債権者の承諾を得ず、債務を譲受会社側に引き継いだ場合、債務逃れと判断される可能性が高くなります。

商号や屋号を引継ぐ場合は譲受会社にも弁済責任が発生する

事業譲渡で商号や屋号を引継ぐ場合については、会社法に定められている通り、譲受会社にも債務の弁済責任が発生します。

なお、弁済とは、返済と同じ意味の法律用語です。

 

第二十二条 事業を譲り受けた会社(以下この章において「譲受会社」という。)が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合には、その譲受会社も、譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負う。

引用元:会社法 第二十二条(譲渡会社の商号を使用した譲受会社の責任等)1項|e-Gov

事業譲渡によって譲受会社が譲渡会社の商号や屋号を引き続き使用するものの、債務を引き継がないようにするには、譲受会社と譲渡会社の両方の合意のもと、譲受会社が譲渡会社の債務について責任を負わない旨を登記する「免責登記」を行うことが一般的です。

 

前項の規定は、事業を譲り受けた後、遅滞なく、譲受会社がその本店の所在地において譲渡会社の債務を弁済する責任を負わない旨を登記した場合には、適用しない。事業を譲り受けた後、遅滞なく、譲受会社及び譲渡会社から第三者に対しその旨の通知をした場合において、その通知を受けた第三者についても、同様とする。

引用元:会社法 第二十二条(譲渡会社の商号を使用した譲受会社の責任等)2項|e-Gov

免責登記を行うことにより、譲受会社は譲渡会社の債権者から債務の支払いを求められることがなくなります。

併存的債務引受と免責的債務引受

商号や屋号を引継ぐ譲受会社が債務を引き継ぐ場合は「併存的債務引受」と「免責的債務引受」の2つの方法があります。

【債務引受方法】

方法 概要 法的根拠
併存的債務引受(重畳的債務引受) 譲受会社が債務を引き継いだ後も、譲渡会社も一緒に(「併存」して)債務を負担する債務引受方法 参照:民法 第四百七十条(併存的債務引受の要件及び効果)|e-Gov
免責的債務引受 譲受会社が債務を引き継ぐと同時に、譲渡会社は債務を「免責」される債務引受方法 参照:民法 第四百七十二条(免責的債務引受の要件及び効果)|e-Gov

事業譲渡の際の債権者保護を義務付ける法律はないため、債権者保護の手続きは不要ですが、譲受会社が債務を引き継ぐケースでは、債権者保護の観点から元の債務者の譲渡会社と連帯して同一の債務を負担する「併存的債務引受」になるのが一般的です。

事業譲渡の際に債務ごと譲受会社が引き継げる?

事業譲渡の際に譲渡会社が債務を譲受会社が引き継ぐようにすることは、債権者の承諾があれば可能です。

債権者の承諾がなければ、事業譲渡の後、債務は譲渡会社に残ります。

事業譲渡で譲受会社が債務を引き継ぐ場合、事業譲渡契約に債務引受条項を盛り込む必要があります。

債権者の承諾を得るには、譲渡会社が債権者に対して「債務も含めた事業譲渡を行う」という譲渡契約書を作成して説明し、同意を得る必要があります。

また、債権者が複数いる場合には、それぞれ個別の同意を得る必要があります。

債務も含めた事業譲渡の際に検討すべきことは、債務の種類や金額の多寡です。

債務の種類によっては、譲渡した事業に関連する債務や、譲渡会社が支払える類の債務など、譲受会社に引き継がれるようにした方が都合がよいケースもあります。

一方、ローン契約や保険契約など契約を伴う債務は、譲受会社に渡すと不都合が出る可能性があります。

また、引き継ぐ債務の金額が大きすぎると、譲受会社が債務を返済できず、せっかく行った事業譲渡が徒労に終わる可能性もあります。

譲受会社が債務を引き継ぐべきかどうかの判断は、譲渡する事業の特性や譲受会社の支払い能力次第であるため、ケースごとの判断になります。