譲渡の際の注意点についてわかりやすく解説

ノウハウ 2022/10/14

事業譲渡とは?譲渡の際の注意点についてわかりやすく解説

会社の負債を減らしたいと考えている人のなかには、事業譲渡という手法が気になっている人もいるでしょう。とくに赤字事業そのものを譲渡できるのか知りたい人もいますよね。

当記事では、事業譲渡がどのような手法なのか詳しく解説します。実際に譲渡する際の注意点も説明するので、ぜひ参考にしてみてください。

事業譲渡とは事業の全部または一部を譲渡すること

事業譲渡とは譲り渡し側が有する事業の全部または一部を、譲り受け側に譲渡する手法のことです。

たとえば、会社を成長させるために採算が取れている事業のみを残し、利益の出ていない不採算事業は事業譲渡で切り離す場合が挙げられます。

また、事業部門のメンバーが独立する場合も事業譲渡をおこなうことがあります。

事業譲渡をおこなう際は複数の手続きを進める必要があるので、事業を譲り渡すことを検討している人は事前に手続きを確認しておきましょう。

事業譲渡の手続き

事業譲渡の手続きは大きく分けて10項目の手続きがあります。事業者の状況によって一部変わる可能性もありますが、まずは事業譲渡の基本的な手続きを確認してきましょう。

【事業譲渡の手続きの流れ】

  1. 仲介者およびアドバイザーの選定
  2. 契約締結
  3. 事業評価
  4. マッチング開始
  5. 交渉
  6. 基本合意書の締結
  7. デューデリジェンス
  8. 取締役会による決議
  9. 最終契約締結
  10. クロージング

手続きの流れや注意点について詳しく解説するのでぜひ参考にしてみてください。

1.仲介者およびアドバイザーの選定

M&Aを希望する中小企業・小規模事業者が仲介者およびアドバイザーを選定する工程です。

仲介者の候補先として、民間のM&A専門業者、金融機関等が挙げられ、アドバイザーの候補先として民間のM&A専門業者、金融機関、士業専門家等が挙げられます。

まずは業務範囲や業務内容、活動提供期間、報酬体系、M&A取引の実績、利用者の声等をホームページや担当者への確認、口コミで確認したうえで、M&Aの仲介者やアドバイザーに相談してみてください。

仲介者およびアドバイザーによっては、業務範囲をこれから紹介する1~10の手続きの特定部分のみを扱っている場合や、全工程を扱っていても、特定の業種・地域に特化したサービスを提供しているため、マッチング候補が限定される場合もあることに留意する必要があります。

また、仲介者およびアドバイザーに業務を依頼する場合は、会社の存続にかかわる情報を開示することになるため、秘密保持に関する契約を結ぶことが必要なことも覚えておきましょう。

2.契約締結

仲介者およびアドバイザーと事業譲渡に関する契約を結ぶ工程です。

契約には、譲り渡し企業、譲り受け企業の双方と仲介者が契約を結ぶ「仲介契約」とアドバイザーと譲り渡し企業、アドバイザーと譲り受け企業といった一方当事者とアドバイザーが契約を結ぶ「アドバイザリー契約」の2種類があります。

仲介契約とアドバイザリー契約にはそれぞれ以下のようなメリットとデメリットが存在します。

【仲介契約とアドバイザリー契約のメリットとデメリット】

仲介契約 アドバイザリー契約
  • 相手方の状況が見えやすいため、交渉が円滑に進む場合が多い
  • 一方の利益に偏った助言を行わない
  • 中立・公平を維持できる仲介者を選ぶ必要がある
  • 契約者の意向を交渉に反映させやすい
  • 必要な手続きのみ契約を結ぶことができる
  • 相手方の状況が見えにくいため、交渉が長引く場合がある

このようなメリットとデメリットが存在するため、状況や好みに合わせて契約を選びましょう。

注意点として、契約を締結する際は、契約に不備はないか、報酬は事前説明のときと同じ金額になっているかなど調印前に納得がいくまで十分な説明を受けることが重要です。必要に応じて他の仲介者やアドバイザー、士業等の専門家に意見を求めることも有効です。

3.事業評価

仲介者およびアドバイザーが経営者との面談や提出資料、現地調査等に基づいて対象事業の評価を行う工程です。

ここでの注意点として、隠さず、ありのままを伝えることが重要です。もしここで負債や係争、税金滞納など都合が悪い負の部分を隠していて、今後の工程となるデューデリジェンス段階で発覚した場合は、基本合意内容の修正や取引自体が破談となる可能性が高いです。

また、成約後に負債や係争、税金滞納など都合が悪い負の部分が発覚した場合には、賠償問題に発展することもあり得るので、必ずありのままを伝えましょう。

4.マッチング開始

仲介者およびアドバイザーは、譲り渡し企業と相談し、候補先の要件を確認し、自社が保有する譲り受け企業情報の中から要件に合致する候補者リストを作成します。仲介者およびアドバイザーは、リストに記載された候補者について、譲り渡し企業と協議を行い、候補先を絞り込み、優先順位を決めます。

マッチングによって交渉先が見つかったら、秘密保持契約を結び、売却先の基礎情報が開示されます。この基礎情報を分析し、譲渡の実現性を検討しましょう。

この時の注意点として、譲り渡し企業がマッチングを希望する候補先、あるいは打診を避けたい先があれば、事前に仲介者およびアドバイザーに伝えておきましょう。また打診を行う優先順位について、仲介者およびアドバイザーとの間で十分な話し合いを行うことも大切です。

5.交渉

交渉の前後で譲り渡し企業と譲り受け企業それぞれのトップで会談を行う場合もあります。この会談で譲り渡す側、譲り受ける側双方の経営理念や人間性を確認し、コミュニケーションを深めていくことで本当に事業を譲り渡してもいいのかを判断します。

譲り受け企業との会談の結果、最終的に譲り渡しても問題ないと判断したなら、M&A後の事業展開や経営方針などお互いの考えを共有していきましょう。

本格的な交渉が始まったら、譲渡価格や今後の事業展開や経営方針、社名や従業員の待遇などについて仲介者およびアドバイザーとともにすり合わせていき、お互いの妥協点を見つけていきます。この時の注意点として、要求する項目に一定の優先順位をつけておくことが大切です。

すべての希望を叶えるのは現実的ではないので、妥協できる部分とできない部分の整理を行い、交渉に臨みましょう。また、雰囲気にのまれて希望が言い出せないということも考えられるので事前に自分の考えを整理しておき、正直に伝えることを心がけましょう。

6.基本合意書の締結

基本合意書は最終契約前にお互いの要望がしっかりと盛り込まれているか、漏れはないか、認識に誤りがないかなどを確認するためのものです。最終契約前に、今まで話し合いでお互いに合意した対価額や経営者の処遇、役員・従業員の処遇などの内容を確認するために基本合意書を締結します。

また、譲り渡し企業の経営統合が円滑に進むよう、現経営者が譲り渡し後においても、一定期間、役員として経営に関与することを契約に盛り込むことも可能です。

7.デューデリジェンス

デューデリジェンスとはM&Aなどの取引の際に行われる会社の価値の調査のことです。M&Aの最終契約を結ぶ前に、譲渡する側の企業の価値の調査を行い、今まで譲渡する側の提供してきた財務情報等、基本合意書の前提となった情報が本当に正しいのかを確認します。

ここで重要なのは「すべての情報を隠さず開示する」ことです。M&Aは会社と会社の信頼関係があって成り立つものであり、どんな情報であっても隠さずに開示するように心掛けましょう。

8.取締役会による決議

譲り渡し側では取締役会による決議が必要になります。事業譲渡は、取り締まりの業務運営に関する基本的事項であるため、取締役会で決議が必要になります。この決議後、事業譲渡日程表、事業譲渡覚書等を作成し、代表取締役が株主総会の承認を得ることを条件として、事業譲渡契約の締結へ進みます。

9.最終契約締結

デューデリジェンスで発見された点や基本合意契約で保留していたことについて再交渉を行い、売買契約書を締結する工程です。

最終契約には、譲渡価格、譲渡対象、決済方法、その他合意事項(役職員の処遇等)が記載されます。また、たとえば、買収後も譲渡する側の経営者が顧問として一定期間、会社に残るような場合は、顧問契約などを結びます。

10.クロージング

事業譲渡の最終段階であり、株式等の譲渡や対価の受け渡しを行う工程です。事業譲渡契約は、契約書に明記された手続きをすべて完了するか所定の期間経過後に有効となります。

ここでの注意点として、金融機関からの借入金や不動産等への担保設定がある場合は、取引金融機関との調整が必要となるため、専門家に相談することも有効です。また、リース契約を引き継ぐ場合は、連帯保証人の変更が必要になることも頭に入れておきましょう。

事業譲渡は売り手にも買い手にもメリットがある

事業譲渡は売り手と買い手双方にメリットがあります。事業を売り負債を減らしたい売り手にとっても、事業を買い取り企業のさらなる成長につなげたいと考えている書いてにとっても取り組みやすい手法です。

売り手側のメリット

会社の事業の一部を選択して譲渡できる

自社内で継続したい、不採算事業のみ切り離したいという事業や会社に負債がある場合、その負債分や会社運営に必要な資産分だけ売却して事業に投資するといった自由度の高い事業取引を行うことができるといったメリットがあります。

負債があっても譲渡がしやすい

事業譲渡は譲渡対象とする事業を選択することができます。そのため負債があり株式譲渡が難しいという状況でも事業譲渡であれば譲渡できるというメリットがあります。

事業の一部のみ売却するので会社を存続させることができる

会社を売却するのではなく、一部の事業のみを選択して譲渡する方法のため、会社を存続して経営が継続できます。譲渡代金を元手に債務を払ったり、新しい事業を起こしたりすることができるというメリットがあります。

従業員を守ることができる

負債もなくしたいが従業員の雇用も守りたいという場合でも買い手との間で従業員の雇用や契約内容について合意できれば雇用を守ることができるといったメリットもあります。

買い手側のメリット

必要な事業のみ承継できる

株式乗東亜合併の場合、買い手側にとって必要ではない資産や負債なども背負う可能性があります。しかし事業譲渡であれば買い手側にとって必要な事業のみ承継できるため、負債や必要のない事業は引き取る必要がないといったメリットがあります。

節税ができる

事業譲渡を行う際ののれん相当額については、5年間の償却ができるほか、有形固定資産の減価償却を、譲受企業側の損金として計上することができるため、節税が期待できます。

事業譲渡にはデメリットも存在する

事業譲渡にはメリットが多数存在する一方、デメリットも存在するため、以下で紹介するデメリットを理解しておきましょう。

売り手側のデメリット

取引先・従業員と個別に契約承継手続きを行う必要がある

事業譲渡を行う場合は、これまで結んでいた取引先・従業員との契約について再度個別契約を結ぶ必要があります。そのため、余分な手間、コストがかかるといったデメリットがあります。

20年間同一事業をおこなうことができない

会社法21条によって「譲渡人は事業譲渡を行ってから20年間は、同一の市町村の区域内・隣接市町村の区域内で譲渡対象事業と同一の事業をおこなってはならない」と定められています。

時間がかかる

事業譲渡は株式譲渡等の譲渡宝刀と比べて、対象事業が関わる債務や従業員、取引先といったすべての契約に対して、相手方の同意を得る必要があるため、その契約の数が多いほど手間・時間・コストがかかります。

税金がかかる

事業譲渡のような大きな取引の場合、法人税等の多額の税金がかかります。

しかし創業者・取締役の退職金を拠出する際に竿尾金として計上できるなど、事業譲渡して退化を受け取る方が譲渡全体の税金自体が軽くなるため、手取り額が増える可能性があります。

買い手側のデメリット

取引先・従業員と個別に契約承継手続きを行う必要がある

売り手側と同様にこれまで結んでいた取引先・従業員との契約について再度個別契約を結ぶ必要があります。そのため、余分な手間、コストがかかるうえに取引先の喪失や人材の喪失といったメリットがあります。

消費税がかかる

事業譲渡では対象事業を譲り受けた対価として譲渡代金を支払うのに消費税がかかります。

期待していた効果が得られない場合もある

融合するまでに時間がかかってしまい、当初想定していたシナジー効果が薄れてしまったり、最悪の場合なくなってしまったりする場合があります。

仲介者およびアドバイザーに相談することが大切

事業譲渡の手続きは数が多く複雑なため自分一人ではわからないことが多いと考えられます。そのため仲介者およびアドバイザーのアドバイスを受けながら、契約内容に必要な事項が網羅されているかをしっかり確認して調印しましょう。

調印前に契約内容に関する意見を他の仲介者およびアドバイザーや士業等専門家から求めることも有効です。

また、契約に盛り込む内容や条件を早い段階から仲介者およびアドバイザーに伝えておいた方が契約締結を円滑に行える場合が多いため、事業譲渡を検討している人は仲介者やアドバイザーを早めに探しておくとよいでしょう。

従業員への配慮も忘れないこと

事業譲渡すると会社の負債が消えたり、譲渡で得た利益によって新たな挑戦をしたりと様々なメリットがある一方、これまで勤めてきた従業員は雇用が継続されるのか、給与や有休に変化はあるのかなど様々な心配事が出てくる可能性があります。

譲渡先との事前の話し合いや交渉、新たに結ぶ契約承継手続き等で従業員の雇用や給与などの待遇面、退職金などについて譲渡先と決定していくとともに、従業員への説明も怠らないようにしましょう。

まとめ

事業譲渡とは譲り渡し側が有する事業の全部または一部を、譲り受け側に譲渡する手法です。譲り渡す側、譲り受ける側どちらにも複数のメリットがあるため、事業を手放したい人は選択肢のひとつとして検討してみるのも手です。

事業譲渡は手続きの数が多く、複雑なものも存在するため、事業譲渡をしてみたいという方は信頼できる仲介者およびアドバイザーを選定し、一度相談してみるといいでしょう。

事業譲渡はこれまで勤めてくださった従業員の方が不信感を持ったり、心配事が増えたりすることが多いため、従業員への説明や譲り受け側への従業員の雇用、給与の保障の契約などを怠らないようにしましょう。