ノウハウ 2022/11/9

事業譲渡の手続きとは?必要な費用も解説

事業を経営している人の中には、事業譲渡を検討している人もいるでしょう。事業を譲渡するためには、契約の締結や企業の調査などを行う必要があります。

当記事では、事業を譲渡するために必要な手続きを説明します。また、手続きにかかる期間や必要な費用も解説しているので、事業譲渡を予定している人や検討している人は参考にしてみてください。

事業譲渡の手続きの流れ

事業譲渡とは、自社で運営している事業を別の企業に売却することを意味します。事業譲渡の実際の手続きの流れを確認しておきましょう。

【事業譲渡を行う際の実際の手続きの流れ】

    1. 事業譲渡の準備
    2. 買い手企業の選定と交渉
    3. 基本合意契約の締結
    4. 買い手企業によるデューデリジェンス
    5. 取締役会での事業譲渡決議
    6. 事業譲渡契約の締結
    7. 届け出の提出
    8. 株主への通告・公告
    9. 株主総会での特別決議
    10. 監督官庁による許認可
    11. 財産などの名義変更手続き
    12. 事業譲渡の効力が発生

事業譲渡をおこなうためには、売り手企業と買い手企業の直接的な話し合いによる譲渡条件の決定や、譲渡する際の契約書の作成など数多くの手続きが必要です。

そのため、事業譲渡の手続きを円滑に進めたい人は金融機関やM&A仲介会社、コンサルタントといった専門家に相談するのがよいでしょう。

①事業譲渡の準備

事業譲渡の手続きを始める前に、売り手企業は事業譲渡の準備を行う必要があります。買い手企業と交渉する前に、事業のアピールポイントや経営課題、市場での立ち位置など自社の現状や将来について詳しく説明できる状態にしておきましょう。また、譲渡する事業や譲渡価格も準備段階で決定しておきましょう。

②買い手企業の選定と交渉

事業譲渡の準備が完了したら、買い手企業の選定を行います。買い手企業を独力で探すのは困難な作業なので、M&A仲介会社などに依頼して自社の事業を買収するのに適した企業を探すのも選択肢のひとつです。買い手企業の候補が見つかったら仲介会社と話し合い、事業譲渡の交渉を行う企業を決定しましょう。

交渉する企業が決まったら、譲渡事業や譲渡価格、譲渡のスケジュールなど事前に準備しておいた譲渡条件を提示し、交渉を行います。買い手企業は、交渉に前向きな場合売り手企業に対して「意向表明書」を交付します。

意向表明書は、買い手企業が事業を譲り受ける表明を行い、譲渡に関する条件やスケジュールなどの希望を提案するための書類です。意向表明書に法的拘束力はありませんが、事業を買収する意思表示や譲渡条件の希望を示す書類になるため、できる限り用意しておくとよいでしょう。

③基本合意契約の締結

売り手企業が、買い手企業が交付した意向表明書の内容に承諾した場合、「基本合意書」を作成し基本合意契約を締結します。基本合意書は、売り手企業と買い手企業双方の間で合意した内容をまとめた書類です。

最終的な合意を意味する事業譲渡契約の前段階の契約で、法的拘束力を持ちません。ただし、契約の中に「独占的交渉権」が含まれている場合は法的拘束力があります。

独占的交渉権とは、売り手企業が一定期間他の企業との売買交渉を行うことができない、という買い手企業が持つ権利です。独占的交渉権の有効期間も企業間の話し合いで決定されますが、多くは基本合意書の締結から事業譲渡契約を締結するまでにかかる2,3か月に設定されます。

④買い手企業によるデューデリジェンス

基本合意契約を締結したのち買い手企業は売り手企業の調査を行い、その結果を踏まえて事業譲渡契約の締結に向け譲渡価格の修正など契約内容を調整します。買い手企業による売り手企業の調査を「デューデリジェンス」といいます。

買い手企業による調査は様々な分野で行われ種類が多数あるため、主なデューデリジェンスの種類を確認しておきましょう。

【デューデリジェンスの主な種類】

種類 内容 調査項目
事業デューデリジェンス 売り手企業の経営・事業を総合的に調査し、買収するに値する企業であるかを判断する 事業内容、競合、仕入先、顧客、製品・サービス、市場、技術
財務デューデリジェンス 売り手企業の財務状況を調査し、安全性や危険性を把握することで企業運営や事業計画の策定に役立てる 決算書・総勘定元帳、予算表、事業計画書、監査法人による報告書、金融機関への提出書類、簿外債務に関する書類
法務デューデリジェンス 売り手企業の株式や組織の法律面に関する調査を行い、法的リスクを把握する 契約、株主、許認可、訴訟、債務
税務デューデリジェンス 売り手企業の納税状況など税金に関する調査を行い、税務リスクの把握やリスクへの対処法を取り決める 各税金の納税状況、税務申告書、税務処理に関する資料
人事デューデリジェンス 売り手企業の人事制度について調査し、人事問題の発生を回避する 人員数、人件費、労使関係、評価制度、採用状況、人事戦略
ITデューデリジェンス 売り手企業の情報システムを調査し、ITの活用や導入、刷新の計画を行う 財務会計システム、人事労務システム、顧客管理システム、販売管理システム

上に挙げた6つだけでなく、他にも環境デューデリジェンス、顧客デューデリジェンス、知的財産デューデリジェンス、不動産デューデリジェンスなど多くの種類があります。全ての調査を行おうとすると多くの時間や費用を費やすことになるので、企業の特徴や状況に応じて必要な調査を行うようにしましょう。

⑤取締役会での事業譲渡決議

売り手企業が取締役会を設置している場合、事業を譲渡する際に取締役会での決議が必要になります。決議で取締役の過半数以上の承認を得られるように、事業譲渡の目的や理由を説明しましょう。取締役会を設置していない企業は、2人以上の取締役がいる場合に過半数の承認を得ることができれば決議を確定することができます。

⑥事業譲渡契約の締結

デューデリジェンスにおける売り手企業の調査と取締役会での承認を経て、事業譲渡契約を締結します。事業譲渡契約は売り手企業と買い手企業の間で最終的な合意が得られたことを証明する、法的拘束力を持つ書類です。

⑦届け出の提出

事業譲渡契約を締結したら、譲渡に向けた準備を行います。まず、場合によって事業譲渡を行う旨を報告する必要があります。

買い手企業は、以下の条件を満たしている場合、公正取引委員会に「事業等の譲受けに関する計画届出書」を提出する必要があります。

【「事業等の譲受けに関する計画届出書」を提出する条件】

  • 国内売上高合計額が200億円を超える場合
  • 国内での売上高が30億円を超える会社のすべての事業を買収する場合
  • 買収する一部の事業の国内売上高が30億円を超える場合
  • 買収する事業の固定資産による国内売上高が30億円を超える場合

また、有価証券報告書の提出義務がある企業で以下の条件を満たした譲渡内容の場合、内閣総理大臣に臨時報告書を提出する必要があります。

【臨時報告書を提出する条件】

  • 当事業譲渡契約により、直近の決算書の純資産額よりも30%以上の増減がある場合
  • 当事業譲渡契約により、直近の決算書の売上高よりも10%以上の増減が予測される場合

⑧株主への通告・公告

事業譲渡を実施するためには、効力が発生する20日前までに株主総会を開催し特別決議を採択する必要があります。株主には事業譲渡を実施する旨や株主総会の開催を知らせる通知を行う必要があるので、官報公告や個別通知で周知しましょう。

官報公告とは、内閣府が発行し国立印刷局が運営している公的な情報伝達手段です。官報に掲載する場合は公告費用がかかりますが一度に多数への通知ができます。官報公告を検討したい人は「官報のご案内」を参考にしてください。

個別通知は株主1人1人に通知を出す手段で、費用はかかりません。株主数や費用を踏まえてどの手段で周知するか考えておきましょう。

なお、事業譲渡の実施に際して債権者保護手続きは不要なため、事業譲渡を検討している人は留意しておきましょう。

⑨株主総会での特別決議

株主への周知を行った後、場合によって事業譲渡の効力が発生する前日までに株主総会で特別決議を採択する必要があります。議決権の過半数以上を持つ株主が出席し、3分の2以上の賛成を得ることで承認されます。売り手企業と買い手企業で特別決議の必要性の有無の条件が異なるのでそれぞれ確認しておきましょう。

【特別決議が必要になる条件】

特別決議が必要な条件 特別決議が不要な条件
売り手企業 ・全事業を譲渡する場合 ・譲渡資産の帳簿価額が売り手企業の総資産の20%を超えない「簡易事業譲渡」の場合
・総資産の20%以上を超える事業を譲渡する場合 ・総資産の20%以上を譲渡する場合でも、「事業の重要な一部」の譲渡に該当しない場合
・買い手企業が、自社の議決権がある株式を90%以上保有している特別支配会社である「略式事業譲渡」の場合
買い手企業 ・全事業を買収する場合 ・全事業を買収しても、買収した事業の帳簿価額が買い手企業の総資産の20%を超えない簡易事業譲受の場合

総資産の20%を超える事業譲渡が「事業の重要な一部」であるかどうかは、譲渡する事業の売上や利益が会社全体の事業の10%を上回る場合(量的側面)と譲渡によって生じる会社の収益や事業活動への影響(質的側面)から決定されます。

また、株主総会の際に事業譲渡に反対した株主に対しては、利益保護のため会社に対する買取請求権が与えられ、公正な価格で買い取ってもらえる権利が与えられます。

⑩監督官公庁による許認可

買い手企業は、事業を始める際に許認可を得る必要があります。指定された特定の事業は、担当の監督官公庁から事業を始める旨を認めてもらう必要があるからです。

【許認可が必要な監督官公庁と該当する事業】

事業 監督官公庁
・食品製造業 保健所
・食品販売業
・飲食業
・病院、薬局業 都道府県知事
・建設業
・医薬品製造販売業
・医薬品販売業
・酒類製造業 税務署長
・酒類販売業
・廃棄物処理業 市町村長
・人材派遣業 厚生労働大臣
・職業紹介業
・医療機器製造業
・医療機器修理業

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

専門性のある事業をはじめる場合には、多くの場合監督官公庁からの許認可を得る必要があります。また、譲渡する事業の種類によって保健所長、厚生労働大臣、税務署長など行政指導を受ける必要がある監督庁が異なるので、事業譲渡により企業を買収した場合にはどこの許認可が必要か事前に確認しておきましょう。

⑪財産などの名義変更手続き

事業譲渡に際して売り手企業から買い手企業に譲渡された資産は、すべて買い手企業の資産に移行されます。その際に、譲渡する以前に売り手企業の名義で登録されていた預金、土地、建物などの資産は、買い手企業の名義に変更する必要があります。

また、従業員の雇用契約はそのまま引き継がれるわけではなく、買い手会社が新たな契約を結ぶ必要があります。

① ~⑪までの契約手続きがすべて完了したら事業譲渡の効力が発生します。また、事業や従業員の引継ぎは手続き完了後も引き続き行われていきます。

事業譲渡手続きにかかる期間は半年ほどである

事業譲渡を完了させるには企業の調査や交渉、株主総会など多くの手続きを踏む必要があるので、目安として半年ほどかかります。早い場合は3か月ほどの期間で完了しますが、長引くと1年以上の期間がかかることもあるので、事業譲渡を検討している人は事前準備をしておきましょう。

事業譲渡にかかる費用は売り手企業と買い手企業で異なる

事業譲渡を行う際に費用がかかります。売り手企業と買い手企業で費用の項目が異なるので表で確認しておきましょう。

【事業譲渡にかかる税金の種類】

税の種類 対象企業 概要
法人税 売り手企業 事業譲渡益の約40%が法人税としてかかる。ただし、譲渡益や企業の利益が赤字の場合は法人税がかからない
消費税 買い手企業 有形固定資産、無形固定資産、棚卸商品、のれんなどの課税資産の総額の約10%が消費税としてかかる。土地、有価証券、債権は無課税資産なので所有していても消費税はかからない
不動産所得税 買い手企業 事業譲渡によって土地や不動産を取得した場合、名義を変更する際に固定資産評価額の4%が不動産所得税としてかかる
登録免許税 買い手企業 事業譲渡によって土地、建物の登記の書き換えをする場合、所有権移転登記の際に固定資産評価額の2%が登録免許税としてかかる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事業譲渡の際にかかる税金は企業の保有している資産や事業譲渡の利益によって異なるので、事前にどのくらい税金を払う必要があるのかを見積もっておきましょう。

まとめ

事業譲渡のために行う手続きは売り手企業と買い手企業で異なるので、事前に手続きに必要な項目を確認しておきましょう。

株主総会の特別決議や届け出の提出は、企業や事業譲渡の内容によって行う必要のない手続きがあるので、よく確認して必要のない作業を省きましょう。