ノウハウ 2024/5/7

吸収分割の手続きとスケジュール例を解説

事業の再構築の際、特定の事業を他社に引き継がせる「吸収分割」の検討を進めたい場合、手続きやスケジュール感が気になりますよね。

吸収分割を行うには会社法に規定される手続きが必要です。

本記事では、どのようなスケジュールに沿う必要があるかをご紹介します。

吸収分割の基本を知りたい方は「吸収分割とは?意味と種類と類語との違いを解説」をご覧ください。

吸収分割の手続きとスケジュール例

事業年度の開始にあわせて4月1日に吸収分割を有効とする手続きの流れを解説します。

【吸収分割の手続きとスケジュール】

フェーズ 具体的な手続き 備考
1月 事前準備 合併する会社間で交渉を進める
  • 社員に通知
  •  会社法で定める以外で、各々の組織再編の手続きが別途必要
2月 内部承認・契約締結 取締役会で承認決議

合併契約の締結

  • 分割会社と承継会社は各々事前開示書類は本店に備え置く
法的手続き 債権者へ異議申述公告・個別催告
  • 債権者へ異議申述期間は1カ月以上必要で、吸収分割の効力発生の前に期間満了
3月 法的手続き 株主総会招集の通知

株式買取請求権を行使する株主への通知または公告

株主総会での承認決議

  • 吸収分割に反対する株主の株式買取請求は効力発生日の二十日前の日から効力発生日の前日までの間
4月 吸収分割の効力発生 変更登記
  • 分割会社と承継会社は各々事後開示書類は本店に備え置く

「事前開示書類」とは吸収分割の効力発生前から開示する書面、「事後開示書類」とは効力発生後に開示する書面を意味します。

なお、吸収分割の際に必要な手続きは次のとおりです。

  • 取締役会で承認決議
  • 合併契約の締結
  • 債権者へ異議申述公告・個別催告
  • 株式買取請求権を行使する株主への通知または公告
  • 株主総会招集の通知と、株主総会での承認決議
  • 変更登記(存続する会社のみ)
  • 解散登記(消滅する会社のみ)

会社法で明記されている手続きには、吸収分割が有効となるための期間が定められているため、特に「通知・公告」のタイミングには注意する必要があります。

フェーズごとに、手続きを解説します。

分割する側(分割会社)は「第一款 吸収合併消滅会社、吸収分割会社及び株式交換完全子会社の手続」に従い、吸収して引き継ぐ側(承継会社)は「第二款 吸収合併存続会社、吸収分割承継会社及び株式交換完全親会社の手続」に従います。

参照:会社法 第二節 吸収分割等の手続|e-Gov

事前準備

まず、吸収分割する会社間で交渉を進めます。

吸収分割の際に必要な組織再編に関しては会社法では特に定められていないため、会社間で話し合い、吸収分割の手続きと並行して準備を進める必要があります。

可能であれば、吸収分割の効力を発生する日を「会社の事業年度の開始日」に合わせるとよいでしょう。

包括的承継での吸収分割の場合、移籍する社員が出るため、人材流出につながる可能性があるため、従業員を不安にさせないよう、早めに通知しましょう。

内部承認・契約締結

吸収合併が合意できたら、それぞれの取締役会で決議を行い、各々の会社の承認を得ます。

承認後、吸収分割の契約書を作成し、締結します。

なお、吸収分割を行う分割会社と承継会社は、吸収分割契約等に関する書面または電磁的記録(事前開示書類等)を本店に備え置くよう、会社法で定められています。

参照:会社法 第七百八十二条(吸収合併契約等に関する書面等の備置き及び閲覧等)、第七百九十四条(吸収合併契約等に関する書面等の備置き及び閲覧等)|e-Gov

法的手続き

吸収分割に必要な手続きとして、分割会社と承継会社は、債権者や反対株主についての対応が会社法で定められています。

債権者へは異議申述公告・個別催告を行う必要がありますが、異議申述期間は1カ月以上必要と規定されているため、吸収分割の効力発生の前にその期間満了させるには、反対株主や株主総会の通知よりも優先して進める必要があります。

第七百八十九条(債権者の異議)
次の各号に掲げる場合には、当該各号に定める債権者は、消滅株式会社等に対し、吸収合併等について異議を述べることができる。
(一部省略)
2 前項の規定により消滅株式会社等の債権者の全部又は一部が異議を述べることができる場合には、消滅株式会社等は、次に掲げる事項を官報に公告し、かつ、知れている債権者(同項の規定により異議を述べることができるものに限る。)には、各別にこれを催告しなければならない。ただし、第四号の期間は、一箇月を下ることができない。
(一部省略)
四 債権者が一定の期間内に異議を述べることができる旨

引用:会社法|e-Gov

 

第七百九十九条(債権者の異議)
次の各号に掲げる場合には、当該各号に定める債権者は、存続株式会社等に対し、吸収合併等について異議を述べることができる。
(一部省略)
2 前項の規定により存続株式会社等の債権者が異議を述べることができる場合には、存続株式会社等は、次に掲げる事項を官報に公告し、かつ、知れている債権者には、各別にこれを催告しなければならない。ただし、第四号の期間は、一箇月を下ることができない。
(一部省略)
四 債権者が一定の期間内に異議を述べることができる旨

引用:会社法|e-Gov

また、吸収分割は、株主総会での承認決議も必要であるため、株主総会招集の通知も早めに行いましょう。

第七百八十三条(吸収分割契約等の承認等) 消滅株式会社等は、効力発生日の前日までに、株主総会の決議によって、吸収分割契約等の承認を受けなければならない。

引用:会社法|e-Gov

 

第七百九十五条(吸収分割契約等の承認等)

存続株式会社等は、効力発生日の前日までに、株主総会の決議によって、吸収分割契約等の承認を受けなければならない。

引用:会社法|e-Gov

なお、株式買取請求権を行使する反対株主や新株予約権者への対応も「効力発生日の二十日前の日から効力発生日の前日までの間」という規定があるので、注意しましょう。

第七百八十五条(反対株主の株式買取請求)
吸収分割等をする場合(次に掲げる場合を除く。)には、反対株主は、消滅株式会社等に対し、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができる。
(一部省略)
5 第一項の規定による請求(以下この目において「株式買取請求」という。)は、効力発生日の二十日前の日から効力発生日の前日までの間に、その株式買取請求に係る株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)を明らかにしてしなければならない。

引用:会社法|e-Gov

 

第七百九十七条(反対株主の株式買取請求)
吸収分割等をする場合には、反対株主は、存続株式会社等に対し、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができる。ただし、第七百九十六条第二項本文に規定する場合(第七百九十五条第二項各号に掲げる場合及び第七百九十六条第一項ただし書又は第三項に規定する場合を除く。)は、この限りでない。
(一部省略)
5  第一項の規定による請求(以下この目において「株式買取請求」という。)は、効力発生日の二十日前の日から効力発生日の前日までの間に、その株式買取請求に係る株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)を明らかにしてしなければならない。

引用:会社法|e-Gov

 

第七百七十七条(新株予約権買取請求)
(一部省略)
3 組織変更をしようとする株式会社は、効力発生日の二十日前までに、その新株予約権の新株予約権者に対し、組織変更をする旨を通知しなければならない。
(一部省略)
5 新株予約権買取請求は、効力発生日の二十日前の日から効力発生日の前日までの間に、その新株予約権買取請求に係る新株予約権の内容及び数を明らかにしてしなければならない。

引用:会社法|e-Gov

 

第七百八十七条(新株予約権買取請求)
(一部省略)
3 次の各号に掲げる消滅株式会社等は、効力発生日の二十日前までに、当該各号に定める新株予約権の新株予約権者に対し、吸収分割等をする旨並びに存続会社等の商号及び住所を通知しなければならない。
一 吸収分割消滅株式会社 全部の新株予約権
(一部省略)
5 新株予約権買取請求は、効力発生日の二十日前の日から効力発生日の前日までの間に、その新株予約権買取請求に係る新株予約権の内容及び数を明らかにしてしなければならない。

引用:会社法|e-Gov

吸収分割の効力発生

吸収分割の効力発生した後は、2週間以内に変更登記を行う必要があります。

会社が吸収分割をしたときは、その効力が生じた日から二週間以内に、その本店の所在地において、吸収分割をする会社及び当該会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を当該会社から承継する会社についての変更の登記をしなければならない。

引用:会社法 第九百二十三条(吸収分割の登記)|e-Gov