ノウハウ 2024/4/12
吸収合併で社員の待遇はどうなる?
事業の再構築を考えて、吸収合併という選択肢が出てきた際に、吸収されて消滅する側となった場合、その会社はどうなるのかをご存知でしょうか。
本記事では、吸収合併した社員の待遇として、給与や手当、福利厚生、勤続年数、役職、退職金など、吸収する側の存続会社の社員と、吸収される側の消滅会社の社員にわけてご紹介します。
CONTENTS
会社が吸収合併では社員の待遇は原則、承継される
吸収合併した際、吸収する側の存続会社の社員は、これまでどおり、給与や手当など雇用契約や、福利厚生制度が変わることはありません。
吸収合併によって消滅する会社の社員の待遇は、原則、承継されます。
ただし、会社間の吸収合併契約で規定されるものであるため、存続会社に寄せた待遇の変更が入る可能性はあり、ケースバイケースです。
なお、吸収合併の手続きは会社法に定められていますが、社員に対しては会社が告知する法的義務はなく、同意も必要ありません。
ただし、株主に対しては告知する法的義務があるため、従業員持株制度がある場合などは必須となるケースもあります。
多くの社員に退職されては吸収合併の利点が得られないため、一般的には社員に詳細な説明なしに吸収合併を行うことはありません。
そもそも吸収合併とは?
吸収合併は、会社法に定義された企業合併の一種です。
1つの会社をそのまま残し、他の会社を吸収して1つにまとめるため、吸収する側(吸収合併存続会社)と、吸収される側(吸収合併消滅会社)にわかれます。
参照:会社法 第二条(定義)二十七 吸収合併|e-Gov
より専門的に言えば、複数の企業の中で1つの会社の法人格を残し、その存続する会社に消滅する会社のすべての権利義務を合併後に引き継がせるため、経営統合や組織再編に使われる手法です。
吸収合併について詳しく知りたい方は関連記事「吸収合併とは?意味や類語との違いやメリットを解説」をご覧ください。
会社が吸収合併したら給与や手当はどうなる?
吸収合併した場合、消滅する側の会社の社員は、原則として、存続会社に引き継がれ、給与や手当は、存続会社の規定に従うことになります。
すべては会社間の吸収合併契約に定められるため、給与や手当の取り扱いもケースバイケースですが、具体的には、以下の変化が考えられます。
【吸収合併での給与や手当の変化】
ケース | 存続会社の社員 | 消滅会社の社員 |
消滅会社よりも存続会社の給与水準の方が高い | 変更なし | 存続会社の給与水準に引き上げられる可能性が高い |
存続会社よりも消滅会社の給与水準の方が高い | 変更なし | 存続会社の給与水準に引き下げられる可能性が高い |
経営統合と組織再編に伴い、役職や勤務地などの労働条件が変わる | 組織再編を伴う異動により、給与や手当へ影響する可能性は高い | 存続会社において下位の役職に変更になれば、給与水準も引き下げられる可能性が高い |
消滅会社には存続会社にはない手当がある | 変更なし | 存続会社では既存の手当がもらえない可能性が高い |
会社が吸収合併したら福利厚生はどうなる?
吸収合併で消滅する側の会社の社員は、福利厚生も原則、存続会社に引き継がれ、存続会社の規定に従います。
福利厚生についても、会社間の吸収合併契約に定められるため、ケースバイケースではありますが、具体的には、以下の変化が考えられます。
【吸収合併での福利厚生の変化】
ケース | 存続会社の社員 | 消滅会社の社員 |
消滅会社よりも存続会社の福利厚生が充実している | 変更なし | 存続会社の福利厚生の規定に従い、待遇が向上する |
存続会社よりも消滅会社の福利厚生が充実している | 福利厚生の追加の見直しが入った場合、福利厚生の待遇が向上する可能性が高い
ただし、抜本的な見直しが入った場合、待遇の引き上げになるか、引き下げになるかは未知数 |
しばらく消滅会社の福利厚生をそのまま引き継ぐ可能性がある
その後、存続会社にあわせて消滅会社での福利厚生の水準が引き下がる可能性が高い |
なお、吸収合併に伴い、福利厚生の見直しを行う場合、存続会社は、労働組合などの社員代表との間で協議を行う必要があります。
参照:労働契約法 第九条(就業規則による労働契約の内容の変更)
会社が吸収合併したら勤続年数はリセットされる?
勤続年数は、社員の有給休暇の法定日数や退職金の計算に影響する重要な項目です。
事業承継にあたる吸収合併において社員の勤続年数は、原則、リセットされません。
社員の勤続年数がリセットされるのは、事業譲渡のように会社を売却するケースです。
事業承継と事業譲渡の違いについては関連記事「事業承継と事業譲渡の違いは?それぞれのメリット・デメリットや選択方法も解説」をご覧ください。
ただし、勤続年数についても、会社間の吸収合併契約に定められるため、吸収合併でも消滅する回の社員の勤続年数をリセットや基準を変更するケースは考えられます。
【吸収合併での勤続年数の変化】
ケース | 存続会社の社員 | 消滅会社の社員 |
消滅会社の退職金制度との整合性ととる際、勤続年数がネックである | 変更なし | 勤続年数のリセット、または基準を変更する可能性が高い |
存続会社の役職と消滅会社の役職のすり合わせが必要である | 変更なし | 勤続年数の基準を変更する可能性が高い |
会社が吸収合併したら管理職など役職はどうなる?
吸収合併で消滅する側の会社の社員は、存続会社の規定に従い、管理職などの役職変更があります。
吸収合併の際、役職の変更で変わる要素は次のとおりです。
- 役職名
- 役職にひもづいた権限や責任
- 給与水準や役職手当の有無
- 役職体系や、昇進・降格の条件
なお、役職体系は就業規則にあたるため、吸収合併に伴う役職体系の見直しを行う場合、存続会社は、労働組合などの社員代表との間で協議を行い、合意する必要があります。
参照:労働契約法 第九条(就業規則による労働契約の内容の変更)
【吸収合併での管理職などの役職の変化】
ケース | 存続会社の社員 | 消滅会社の社員 |
消滅会社よりも存続会社の役職体系の方が高度 | 変更なし | 存続会社の役職体系にあわせて、役職の権限や責任が引き上げられる可能性が高い |
存続会社よりも消滅会社の役職体系の方が高度 | 変更なし | 存続会社に存在しない役職の場合は降格するなど、役職体系に引き下げられる可能性が高い |
経営統合と組織再編に伴い、役職体系に見直しが入る | 変更あり
役職に関わるすべてが影響する可能性は高いが、引き下げられる可能性は低い |
役職体系に抜本的な見直しが入った場合、既存の待遇の引き上げになるか、引き下げになるかは未知数 |
会社が吸収合併したら退職金はどうなる?
会社の退職金制度は次のような種類があります。
- 退職一時金制度
- 退職金共済制度
- 確定給付企業年金制度(DB)
- 企業型確定拠出年金制度(企業型DC)
どの退職金制度であっても、吸収合併で消滅する側の会社の社員は、存続会社の規定に従うため、原則、存続会社の退職金制度に移行します。
ただし、福利厚生として会社間の吸収合併契約に定められるため、ケースバイケースです。
また、「企業型確定拠出年金制度」など、会社は拠出金を出すだけで自前の運営をしていない制度については、事業主または個人の申し出により移換できるため、消滅会社から引き継げます。
参照:離職・転職時等の年金資産の持ち運び(ポータビリティ)|厚生労働省
会社の吸収合併によるリストラや退職勧告はある?
吸収合併によってリストラや退職勧告は必ず行われるものではありませんが、組織再編で人員削減が必要となったケースでは行われる可能性があります。
特に、吸収合併によって会社機能が重複する場合、その部門の社員について、異動はもちろん、リストラや退職勧告の対象となる可能性があります。
【吸収合併でのリストラや退職勧告の可能性】
ケース | 存続会社の社員 | 消滅会社の社員 |
消滅会社と存続会社の会社機能が重複していない部門に所属している | リストラや退職勧告の可能性は低い | リストラや退職勧告の可能性は低い |
消滅会社と存続会社の会社機能が重複する部門に所属している | リストラや退職勧告の可能性は低い | 異動を打診される可能性が高い
リストラや退職勧告がある可能性も高い |
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