コラム 2023/11/1

事業承継と事業譲渡の違いは?それぞれのメリット・デメリットや選択方法も解説

事業の引き継ぎを考えている会社には「新事業を展開したい」「売上が低迷しているなどのさまざまな背景があるでしょう。事業の引き継ぎには複数方法があり、それぞれ違いがあります。

当記事では、「事業承継」「事業譲渡」の違いに関してメリット、デメリットなどに触れながら解説します。違いに関して会社の状況に応じた選び方についても説明するので、ぜひ参考にしてください。

事業承継と事業譲渡の違い

「事業承継」と「事業譲渡」は、いれも事業を引き継ぐ方法ですが、その方法や引継ぎ先が異なります。「事業承継」は後継者に事業を受け継ぐこと、「事業譲渡」は他社に事業を譲りわたすことを意味します。

事業承継

事業承継とは、現在の経営者から後継者に事業を受け継ぎ、事業の経営を続けることを指します。

事業承継を行う場合には、経営上で重要となる会社の資産や従業員を確実に引き継ぐ必要があります。また、事業承継を行う際には、どのタイミングで、誰に引き継ぐのか、計画を立てて行うことが大切です。

近年では後継者問題から、なかなか後継者が見つからず、結果的に廃業となってしまう会社も少なくありません。スムーズに事業承継を行うために、早い段階から事業承継の対応を検討しておきましょう。

事業譲渡

事業譲渡とは、事業の一部、もしくは全てを他の会社へ売却することを指します。事業譲渡は 「事業売却」 と呼ばれることもあり、売り手は売却する事業を自由に選択できます。

その一方で、買い手も買収する事業を選択できるため、何を事業譲渡の対象とするのかを両者で話し合い、事業譲渡を進めていきます。

しかし、事業譲渡では譲渡できるものに制限があり、会社を経営するために必要な株式の譲渡を行うことはできません。そのため、経営者は会社の経営権を所持したまま事業譲渡を行えます。

事業承継と事業譲渡のメリットを比較

事業承継と事業譲渡はそれぞれ異なるメリットがあります。会社が置かれている状況や、会社の目的に応じて適切な選択ができるよう、それぞれのメリットを把握しておきましょう。

【事業承継と事業譲渡のメリット】

事業承継のメリット 事業譲渡のメリット
  • 従業員や取引先からの理解を得やすい
  • M&Aで優秀な後継者を探せる
  • 事業承継税制を使用できる
  • 複雑な手続きではない
  • 譲渡事業を自由に選択できる
  • 譲渡先が見つかりやすい
  • 売却益を得られる
  • 法人格を残し経営を続けられる

事業承継は、経営者が変わるものの、事業を引き継ぎ雇用契約の条件も継続するため、従業員からの不満や社名の変更による取引先との関係性の悪化などのリスクを抑えられます。また、事業承継の際には、事業承継税制によって、相続税や贈与税の納税猶予や免除を受けられるため、後継者の負担も軽減されます。

事業譲渡では、売却したい事業を自由に選択することができ、株式を譲渡することなく経営を継続できます。また、事業譲渡では採算事業のみを買い手に引き継ぐことが可能なため、譲渡先が見つかりやすいといえるでしょう。事業売却時は、対象事業の帳簿価格に今後その事業によって得られる営業価値を加味した金額が上乗せされた売却価格となるため、売却益を得られる場合もあります。

事業承継と事業譲渡のデメリットを比較

事業承継と事業譲渡のいずれかを選択した場合に、リスクとなるデメリットもあります。

いずれも、メリットだけでなく、デメリットも理解しておくことが事業の引き継ぎを成功させる鍵となります。

【事業承継と事業譲渡のデメリット】

事業承継のデメリット 事業譲渡のデメリット
  • 負債も引き継ぐことになる
  • 承継先が見つからない可能性がある
  • 労働環境の維持が保証約束されない
  • 従業員や取引先の同意や契約などの手続きが多く負担となる
  • 売却益に対して法人税が課税される
  • 同事業のビジネスを始められない

たとえば、事業承継は、重要なポジションである経営者が変わることになるため、後継者選定を誤ることで経営が右肩下がりになることも考えられます。重要なポジションであるにもかかわらず、高齢化と言われる現代においては後継者候補がすぐに見つからないこともあり、事業承継を諦める選択をせざるを得ない場合もあります。

また、事業譲渡を行うことで債権者から許害行為であると指摘されたり、収益が減少することによって債務の返済能力が下がり、事業譲渡自体の取り消しを求められたりするケースもあります。

なお、これらのデメリットは会社の置かれている状況によっても異なります。いずれの場合にも債権者などへの十分な説明を行うなどの対策を用意しておきましょう。

事業承継と事業譲渡の選択方法は会社の状況によって異なる

会社が赤字経営の場合は、事業譲渡を選択する会社が多く見られます。事業譲渡は、事業の売却によって売り手が資金を得られ、その資金によって負債の弁済など金銭面の問題解決を図りながら運営改善が見込めるからです。また、全ての事業を売却しても、経営者が培ってきたノウハウを事業の中で買い手に伝えていくこともできます。

負債を引き継ぐことになる事業承継は、次期後継者の負担にもなるため、現経営者が負い目に感じることも少なくありません。負債を無くしてから事業を引き継ぎたいと感じることもあるでしょう。

会社の経営が安定、もしくは次期後継者の負担が少しでも軽減された後に、事業承継を考えるのもひとつの方法です。

事業承継と事業譲渡の進め方

事業承継と事業譲渡では必要となる手続きも異なります。さらに、事業承継で代表的な方法には「親族内・親族外承継」と「M&Aを活用した承継」の2種類あり、それぞれ引継ぎ先が異なります。

事業承継の進め方

事業承継の進める方法は「親族内・親族外承継」と「M&Aを活用した承継」の2つに大別されます。

「親族内・親族外承継」は、後継者となる人が親族関係や血縁関係にある人の場合は「親族内承継」 にあたり、親族以外である会社内の従業員等が後継者となる場合は 「親族外承継」 となります。

一方で、「M&Aを活用した承継」は、親族や会社内の従業員で後継者がいない場合に、外部の第3者に対して承継を行う方法です。外部の経営経験者を後継者に選択することが可能になるため、事業の引継ぎを円滑に行うことも可能です。

事業承継を検討している人は、会社が置かれている状況を整理し、自社にあった適切な事業承継の方法を検討しましょう。

親族内・親族外承継の進め方

事業承継を親族内・親族外承継で進める場合は、後継者を選定し引継ぎまでに育成する必要があります。

【親族内・親族外承継の進め方】

 1.事業承継の必要性と知識を把握する
  • 「事業承継の仕組み」を認識し、支援機関や専門機関などを活用しながら「事業承継の必要性」を見直す
 2.現在の経営状況や課題を把握する
  • 金融機関や専門家に協力してもらいながら会社の経営状況や課題を明確にする
 3.経営改善を実行し、承継に向けた準備をする
  • 後継者の負担が軽減されるよう経営改善を行う
 4.事業承継計画の策定を行う
  • 事業承継の時期や会社の課題、課題に対する具体的な対策を記載した事業承継計画を作成する
 5.事業承継を実行する
  • 事業承継計画に沿って、会社の課題を解消しながら経営権の引き継ぎや資産の移転を行う

なお、親族内・親族外承継で進める場合は、生前贈与、相続、売買など承継方法に応じた手続きを進める必要があります。事業承継には株式譲渡や書類作成、登記など様々な手続きがあるため、忙しくて時間が取れない人やノウハウがない人などは専門家への相談を検討してみましょう。

M&Aを活用した承継の進め方

親族の後継者や従業員後継者がいない場合は、M&Aを活用した事業承継を検討します。M&Aとは、複数の企業が合併することや、他社による事業や株式の買収のことです。

【M&Aを活用した承継の進め方】

 1.支援機関に相談し、意思決定を行う
  • 支援機関へ相談し協力のもとM&Aを行うべきかの意思決定を行う
 2.仲介会社を選定する
  • 売り手企業と買い手企業の間に入り、M&Aを進めてくれる仲介会社を選定する
  • 仲介会社決定後はアドバイザー契約とコンサルティング契約を締結する
 3.売り手企業の企業価値を評価する
  • 仲介会社や専門家が、売り手企業の企業価値を評価する
 4.買い手となる企業の選定を行う
  • 条件に優先順位を付けて何社か候補となる企業を絞っておく
  • 買い手となる企業の選定を行う
 5.両企業による交渉
  • 両企業の代表者が面談を行い、買い手企業の経営理念、企業文化、代表者の考え方や人間性を確認する
 6.基本合意契約を締結する
  • 交渉の中で決定した条件や了解事項をまとめ、基本合意契約を締結する
 7.買い手による調査を行う
  • 買い手企業は、売り手企業の財務面や法務面に関する調査を行う
 8.最終契約を締結する
  • 調査で問題点があった場合、再度面談と交渉を行う
  • 法的拘束力を持つ最終的な契約を行う
 9.M&Aを実行する
  • 正式に株式の譲渡、買収金額の支払いを行う

M&Aによる事業承継を選択する場合は、売り手を探す必要があります。商工会や商工会議所で相談に乗ってもらえる場合があるため、買い手の探し方に悩んでいる人は、管轄の商工会や商工会議所を確認してみましょう。

なお、国が設置する「事業承継・引継ぎ支援センター」では、親族内への承継や第三者への引継ぎなど中小企業の事業承継に関する相談を受け付けているので活用してみてください。

事業譲渡の進め方

事業譲渡は、事業承継に比べて手続きが多く複雑であることが特徴のひとつです。複雑な分、長期的なスケジュールを要することも珍しくありませんが、順を追って着実に進めていきましょう。

【事業譲渡の進め方】

1.事業譲渡計画を立てる
  • 会社の市場価値などから譲渡事業の売買価格を決定し、具体的な譲渡計画を立てる
  • 事業譲渡完了までのスケジュールを細かく計画しましょう。
2.取締役会決議で承認を得る
  • 事業譲渡を行う目的や理由を取締役会で説明し、取締役からの承認を得る
3.買い手企業の選定と交渉
  • 金融機関やM&A仲介会社に依頼をして買い手企業を選定する
  • 買い手企業確定後に両者の条件について交渉をする経営者面談を行う
4.基本合意書を締結する
  • 交渉の中で決定した事項を書類でまとめて譲渡内容を明確する
5.買い手による調査が行われる
  • 専門家を通して売り手企業に関する財務面や法務面の問題点などの調査が行われ、買収価格や譲渡条件が見直される
6.事業譲渡契約書を締結する
  • 両者の最終的な合意として、譲渡日、譲渡財産、守秘義務などが書かれた事業譲渡契約書を締結する
7.各所へ届出を行う
  • 公正取引委員会への届出

→国内売上高合計額が200億円を超える企業で指定された要件に当てはまる企業

  • 財務局および金融庁へ臨時報告書の提出

→有価証券報告書の提出義務がある企業で指定された要件に当てはまる企業

8.株主に対して公告や通知をする
  • 事業譲渡が実行される20日前までに事業譲渡の内容や株主総会開催の連絡を行う
9.株主総会を実施する
  • 「売り手企業の全部譲渡」「別会社の事業の全部譲受」「重要な事業の一部譲渡」などに当てはまる場合は、事業譲渡効力発生日の前日までに株主総会での特別決議で承認を得る
10.各種手続きを行う

 

  • 許認可の手続きや名義変更等
 11.事業譲渡の完了
  • 事業譲渡効力発生日を迎えると完了
  • 譲渡対象に従業員が含まれている場合には適宜コミュニケーションをとる

事業承継と事業譲渡以外の引き継ぎ方法

事業承継と事業譲渡以外にも、事業を引き継ぐ方法は存在します。それぞれの特徴や承継方法は事業承継や事業譲渡と異なるため、会社に適した方法で承継をすることが成功への鍵となります。

会社分割

会社分割は、兄弟会社や子会社として事業の一部を切り離し、承継する方法です。

会社にとっては不採算である事業を切り離すことにより、会社が行う事業を整理できることや、得意分野に注力しやすくなります。また、会社分割では全ての契約を引き継ぐため、事業譲渡の際に必要だった個別の手続きが不要となります。

しかし、会社分割は、負債を引き継ぐ場合や、税務・許認可の取得等の手続きが必要となることもあるため、会社の状況を踏まえた上で選択するようにしましょう。

株式譲渡

株式譲渡は、売り手企業の経営者が保有する株式を、買い手企業に譲渡し、子会社化する方法です。法人である会社を譲渡するため、知的財産、許認可、資産や負債などをそのまま引き継ぐ形になるため、株式と金銭のみの簡潔な手続きで行えます。

引継ぎの手続きが簡便であることから、M&Aで活用されるケースも多く見られますが、不採算事業を引き継ぐという点で譲渡価格が上がらず、希望する価格で売却することが難しい場合もあることを念頭に置いておきましょう。

まとめ

事業承継と事業譲渡はいずれも事業を引き継ぐ方法ですが、事業承継は後継者へ事業を引き継ぎ、経営を続ける方法であり、事業譲渡は別の会社へ事業を売却する方法です。

事業承継と事業譲渡は、それぞれのメリットやデメリットも異なるため、会社の状況に合わせた方法を選択することが成功へのポイントです。

事業承継や事業譲渡以外にも、事業の引き継ぎ方法に、会社分割や株式譲渡があります。それぞれの特徴とメリット・デメリットを理解した上で、会社の将来のために適した方法を選択しましょう。