ノウハウ 2024/5/23

吸収分割とは?意味と種類と類語との違いと流れを解説

事業の再構築を考える際、特定の事業を他社に引き継がせる「吸収分割」という選択肢が出てくることがあるでしょう。

本記事では、吸収分割の意味、種類、類語の吸収合併・新設分割との違い、分割する側と吸収される側のメリットやデメリット、手続きの流れについてご紹介します。

吸収分割の意味

吸収分割をわかりやすく一言で表現すると「採算がとれない特定の事業を、他社に譲り渡すこと」です。

吸収分割(きゅうしゅうぶんかつ:absorption-type split)は、会社法で定義されるとおり、特定の事業に関する権利義務の一部またはすべてを切り分け、別の企業に引き継がせる企業分割の一種です。

第二条(定義)二十九 吸収分割 株式会社又は合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割後他の会社に承継させることをいう。

引用:会社法|e-Gov

「特定の事業に関する権利義務」とは、特定の事業に関する株式や事業用資産、技術やノウハウなどを指します。

特定の事業をすべて引き継ぐ包括承継の吸収分割を行う場合、移籍する従業員の雇用契約や、取引先との契約なども含まれます。

吸収分割の種類

吸収分割には種類があり、「誰に対価を支払うか」によって「分社型」と「分割型」にわかれます。

【吸収分割の種類】

吸収分割

分割会社が特定の事業の一部またはすべてを承継会社に引き継ぐ。
分社型吸収分割 分割型吸収分割
承継会社は、分割会社に吸収分割の対価を金銭もしくは株式で支払う。

旧商法からの慣例で「物的吸収分割」と呼ばれることもある。

承継会社は、分割会社の株主に吸収分割の対価を金銭や株式で支払う。

旧商法からの慣例で「人的吸収分割」と呼ばれることもある。

吸収分割と吸収合併の違い

吸収分割の類語に、会社法に定義される「吸収合併」があります。

第二条(定義)二十七 吸収合併 会社が他の会社とする合併であって、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併後存続する会社に承継させるものをいう。

引用:会社法|e-Gov

吸収合併は、わかりやすく一言で表現すると「合併の過程で1つの会社をそのまま残し、他の会社を吸収して1つにまとめること」です。

吸収分割と吸収合併の違いは「特定の事業に関する権利義務が元の会社と無関係になるか否か」です。

また、吸収分割は移転する権利義務が「特定の事業の一部」である可能性がありますが、吸収合併で移転するのは「会社のすべて」である点も、大きな違いと言えます。

【吸収分割と吸収合併の違い】

吸収分割 吸収合併
分割された事業が別の会社に移転すると、元の会社とは一切、無関係になる 事業に関する権利義務はすべて、合併後に存続する1つの会社に吸収される

吸収合併について詳しく知りたい方は「吸収合併とは?意味や類語との違いやメリットを解説」をご覧ください。

吸収分割と新設分割の違い

吸収分割の類語に、会社法に定義される「新設分割」があります。

第二条(定義)三十 新設分割 一又は二以上の株式会社又は合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割により設立する会社に承継させることをいう。

引用:会社法|e-Gov

新設分割は、わかりやすく一言で表現すると「会社を新しく創り、特定の事業に関する権利義務を譲り渡すこと」です。

【吸収分割と新設分割の違い】

吸収分割 新設分割
特定の事業に関する権利義務を譲り渡すのは「既存の会社」である 特定の事業に関する権利義務を譲り渡すのは「新たに設立した会社」である

吸収分割のメリットとデメリット

【特定の事業を分割する側(分割会社)のメリットとデメリット】

分割するメリット 分割するデメリット
  • 特定の事業を他社に渡し、選択と集中を行うことで、事業の効率化を図れる
  • 株式や現金など吸収分割の対価を受け取り、資金調達が行える
  • 合併のように法人格の消滅や他社の経営方針の影響はないため、従業員への説明が特に必要ない
  • 吸収された特定の事業は、分割会社と無関係になる
  • 事業の見直しや組織再編で株価や株主構成が変動する可能性が高いため、株主に対する説明義務がある
  • 特定の事業に関連する作業の切り分けが必要で、現場に負荷がかかる

【特定の事業を吸収する側(吸収会社、承継会社)のメリットとデメリット】

吸収するメリット 吸収するデメリット
  • 特定の事業を引き継いだ会社は、移経営ノウハウや経営資源を活用し、経営の安定化を図れる
  • 吸収合併のように会社丸ごとではなく、特定の事業のみを吸収できるため、必要最低限の資金で実行できる
  • 資産を簿価で承継できる「適格分割」にできると、消費税が発生しないなどの税制優遇がある
  • 特定事業を承継することを前提にした組織再編の必要がある
  • 事業の見直しや組織再編で株価や株主構成が変動する可能性が高いため、株主に対する説明義務がある
  • 包括承継での吸収分割の場合、移籍予定の従業員が退職するなど人材流出があると、期待した吸収分割の効果が出ない可能性がある

吸収分割の手続きの流れ

吸収分割の手続きは会社法で定められています。

分割する側(分割会社)は「第一款 吸収合併消滅会社、吸収分割会社及び株式交換完全子会社の手続」に従い、吸収して引き継ぐ側(承継会社)は「第二款 吸収合併存続会社、吸収分割承継会社及び株式交換完全親会社の手続」に従います。

参照:会社法 第二節 吸収分割等の手続|e-Gov

事業年度の開始にあわせて4月1日に吸収分割を有効とする手続きの流れを解説します。

【吸収分割の手続きの流れ】

フェーズ 具体的な手続き 備考
1月 事前準備 吸収分割する分割会社と承継会社間で交渉を進める
  • 社員に通知
  • 会社法で定める以外で、各々の組織再編などが必要
2月 内部承認

契約締結

取締役会で承認決議

合併契約の締結

債権者へ異議申述公告・個別催告

  • 分割会社と承継会社は各々契約書などの事前開示書類は本店に備え置く
  • 債権者へ異議申述期間は1カ月以上必要で、吸収分割の効力発生の前に期間満了
3月 法的手続き 株主総会招集の通知

株式買取請求権を行使する株主への通知または公告

株主総会での承認決議

  • 吸収分割に反対する株主の株式買取請求は効力発生日の二十日前の日から効力発生日の前日までの間
4月 吸収分割の効力発生 変更登記
  • 分割会社と承継会社は各々事後開示書類を本店に備え置く

なお、「事前開示書類」は吸収分割の効力発生前から開示する書面で、「事後開示書類」は吸収分割の効力発生後に開示する書面を意味します。

吸収分割の手続きについて詳しく知りたい方は「吸収分割の手続きとスケジュール例を解説」をご覧ください。