ノウハウ 2024/5/7

株式譲渡とは?意味と流れと制限と類語との違いを解説

事業を再構築する際に、条件にを満たせば経営権を移転させ得る「株式譲渡」という選択肢が出てくることがあるでしょう。

本記事では、株式譲渡の意味と流れ、制限を解説します。

また、株式における「譲渡」と「売却」と「贈与」の違い、株式譲渡と事業譲渡との違い、株式譲渡のメリット・デメリットについてもご紹介します。

株式譲渡の意味と流れ

株式譲渡(かぶしきじょうと)は、有償または無償で、株主が保有する株式を別の会社または個人に譲り渡すことを意味します。

英語で株式譲渡は “Stock Transfer” や“Stock Purchase”など、文脈によって多様に表現されますが、株式譲渡契約書は略語としてSTA(Stock Transfer Agreement)やSPA(Stock Purchase Agreement)と呼ばれる傾向があります。

株式譲渡は会社法に定められています。
参照:会社法 第三節 株式の譲渡等 第一款 株式の譲渡(第百二十七条〜第百三十五条)
|e-Gov

中小事業者間で株式譲渡を行う場合、対象の株式は定款で譲渡制限を設けている可能性が高いです。

譲渡制限のある株式を譲渡する場合、株主総会や取締役会など会社の定款で定めた特別決議で承認が必要で、次の流れで進めます。

  1. 株式譲渡の承認請求
  2. 株主総会(もしくは取締役会)の決議と承認
  3. 株式譲渡決定の通知
  4. 株式譲渡契約の締結
  5. 決済手続き(*有償譲渡の場合:譲受側が譲渡側へ対価支払い)
  6. 株式発行会社へ株主名簿の書き換え請求
    参照:会社法 第三節 株式の譲渡等 第二款 株式の譲渡に係る承認手続|e-Gov

なお、法人間で株式を無償譲渡する場合、譲受会社が譲渡会社に対価を支払う必要はありませんが、双方に株式譲渡益とあわせたその他の収益全体に法人税がかかります。

株式譲渡の手続きや必要書類について詳しく知りたい方は「株式譲渡の手続きと必要書類は?無償と譲渡制限株式のケースも解説」をご覧ください。

株式譲渡の制限

会社法には、株式は自由に譲渡できる原則があります。

第百二十七条(株式の譲渡)
株主は、その有する株式を譲渡することができる。
引用:会社法|e-Gov

しかし、会社と関係のない第三者、あるいは敵対的な第三者に議決権が渡らないよう、株式の譲渡を制限した「譲渡制限株式」にすると、株主総会や取締役会などでの承認を得ない限り、第三者へ株式譲渡できないように制限を設けられます。

第二条(定義)
十七 譲渡制限株式 株式会社がその発行する全部又は一部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要する旨の定めを設けている場合における当該株式をいう。
引用:会社法|e-Gov

株式譲渡の制限をかけるには、会社の定款に「当会社の一部(あるいは全部)の株式について譲渡により取得する場合、株主総会(あるいは取締役会)の承認が必要」と規定を追加します。

なお、特定の事業の一部の株式ではなく、会社のすべての株式に譲渡制限をつけている会社は「株式譲渡制限会社」と呼ばれます。

一方で、一部の株式にも譲渡制限を設けていない会社は「公開会社」と呼ばれます。

株式の譲渡と売却と贈与の違い

株式の「譲渡」と似た概念として「売却」と「贈与」がありますが、わかりやすく説明すると「株式の譲渡」は「売却」と「贈与」をあわせた概念だと言えます。

【株式の譲渡・売却・贈与の違い】

株式の譲渡 株式の売却 株式の贈与
有償・無償のケースがある。

有償譲渡なら譲受側は対価を支払い、譲渡側は利益を得る。

無償譲渡なら相続税法で定められるとおり、贈与税を納める必要がある。

有償で株式を渡す。

譲受側は株式の対価を必ず支払い、譲渡側は売却益を得る。

無償で株式を渡す。

譲受側は相続税法で定められるとおり、贈与税を納める必要がある。

一般的に、会社法人への株式の贈与は「株式の無償譲渡」と呼ぶ傾向があります。

また、中小企業が事業承継を目的とした株式無償譲渡の場合、経営承継円滑化法が適用され、贈与税・相続税の納税猶予及び免除される税制支援が受けられるなどの特例があります。

参照:経営承継円滑化法による支援|中小企業庁
中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)|e-Gov

株式譲渡と事業譲渡の違い

株式譲渡と事業譲渡の違いは「譲渡するものが株式のみか否か」です。

【株式譲渡と事業譲渡の違い】

株式譲渡 事業譲渡
譲渡するものは株式のみ。

ただし、議決権割合を満たす過半数を譲渡した場合は譲渡会社の経営権も譲渡することになる。

譲渡するのは、譲渡する事業に関連するすべての権利や義務、資産。

ただし、譲渡するものの一部に株式が含まれ、部分的に株式譲渡が行われるケースは考えられる。

事業譲渡について詳しく知りたい方は「事業譲渡とは?譲渡の際の注意点についてわかりやすく解説」をご覧ください。

株式譲渡と株式交換・株式移転・株式交付との違い

事業再構築のための株式譲渡の場合、会社(譲渡会社)が保有する株式を、別の会社(譲受会社)に譲渡することを指し、その意味の違いによって株式交換・株式移転・株式交付とも呼ばれます。

【株式譲渡と株式交換・株式移転・株式交付との違い】

株式の譲渡 株式交換 株式移転 株式交付
概要 広く「株式を渡す」こと全般を指す。 会社が発行済みの株式をすべて、他の会社に渡す。 会社が発行済みの株式をすべて、新会社に渡す。 子会社化の際に支払う対価を、親会社が自社の株式を渡す。
対象 個人間、会社法人間、会社法人と個人間で可能。 1対1の会社間 1または複数の会社と新会社との間 1対1の会社間
株式 譲渡会社が譲受会社に株式の一部、または全部を渡す。 譲渡会社が譲受会社に株式をすべて渡す。 譲渡会社が譲受会社に株式をすべて渡す。 譲渡会社の株式を譲り受け、対価として親会社(譲受会社)の株式の一部を渡す。
備考 対価は有償・無償のケースがある。 譲渡会社が完全子会社となり、譲受会社が完全親会社となる。 株式の移転先は新会社のみに限定される。 譲渡会社は子会社となるが、完全子会社にはならない。

なお、会社法で「株式交換」・「株式移転」・「株式交付」は定義されています。

第二条(定義)

三十一 株式交換 株式会社がその発行済株式(株式会社が発行している株式をいう。以下同じ。)の全部を他の株式会社又は合同会社に取得させることをいう。

三十二 株式移転 一又は二以上の株式会社がその発行済株式の全部を新たに設立する株式会社に取得させることをいう。

三十二の二 株式交付 株式会社が他の株式会社をその子会社(法務省令で定めるものに限る。第七百七十四条の三第二項において同じ。)とするために当該他の株式会社の株式を譲り受け、当該株式の譲渡人に対して当該株式の対価として当該株式会社の株式を交付することをいう。
引用:会社法|e-Gov

株式譲渡と子会社化との違い

子会社化とは、会社法で定義される子会社の状態にすること、つまり、自社の傘下に組み入れて子会社とした企業の経営権を持つことを意味します。

第二条(定義)三 子会社 会社がその総株主の議決権の過半数を有する株式会社その他の当該会社がその経営を支配している法人として法務省令で定めるものをいう。
引用:会社法|e-Gov

【株式譲渡と子会社化の違いのポイント】

株式譲渡 子会社化
株式の所有権を渡す。

議決権を行使できる過半数の株式譲渡を行った場合、譲受会社は親会社となり、譲渡会社は子会社になる。

経営する権利をそれぞれ持つ2つの会社が、一方に経営権を渡し、親会社が子会社の経営権を得る。

一般的に、議決権を行使できる過半数の「株式譲渡」を行うと、譲受会社は譲渡会社を「子会社化」できます。

「子会社化」では必ず株式譲渡が行われますが、「株式譲渡」を行うことが必ずしも子会社化を意味するものではない点に注意が必要です。

【子会社の種類】

  • 親会社が100%株式を取得して完全に議決権をもつ「完全子会社」
  • 株式の過半数を持つ「連結子会社」
  • 議決権割合の過半数に満たないが、親会社の影響を受ける「非連結子会社」

なお、子会社になった場合、親会社の株式譲渡は原則、行えません。

第百三十五条(親会社株式の取得の禁止)

子会社は、その親会社である株式会社の株式(以下この条において「親会社株式」という。)を取得してはならない。
引用:会社法|e-Gov

ただし、次の組織再編のケースなどでは、子会社でも親会社からの株式譲渡が行えます。

  • 親会社が新設合併や吸収合併で消滅するケース
  • 吸収分割で他の会社から親会社株式を承継するケース
  • 新設分割で他の会社から親会社株式を承継するケース

なお、新設合併や吸収合併について詳しく知りたい方は「新設合併とは?メリットや類語との違いを解説
吸収合併とは?意味や類語との違いやメリットを解説」をご覧ください。

株式譲渡のメリットとデメリット

【株式譲渡する側(譲渡会社)のメリットとデメリット】

株式譲渡するメリット 株式譲渡するデメリット
  • 経営の行き詰まりを解消できる
  • 無償譲渡の場合、自社の事業の選択と集中、あるいは事業承継が行える
  • 株式の有償譲渡の場合、株式や現金などの対価を得て、資金調達が行える
  • 株式譲渡による利益がある場合、その他の会社全体の利益とあわせて法人税がかかる
  • 議決権を行使できる過半数の株式を譲渡すると、自社の経営権を失う
  • 株式譲渡で子会社になる場合、親会社の譲受会社の方針により、将来的に従業員の待遇が変化する可能性がある

【株式譲渡される側(譲受会社)のメリットとデメリット】

株式譲渡されるメリット 株式譲渡されるデメリット
  • 合併時のような経営統合・組織再編の必要なく、自社の経営の効率化や事業拡大が図れる
  • 議決権を行使できる過半数の株式を譲渡される場合、譲受会社の経営権を得て子会社にできる
  • 有償譲渡の場合、譲渡会社に支払う対価を用意する必要がある
  • 株式譲渡による利益がある場合、その他の会社全体の利益とあわせて法人税がかかる

なお、株式譲渡する側の譲渡会社で想定される主な変化は次のとおりです。

【株式譲渡する側の譲渡会社の主な変化】

会社 株式譲渡が一部なら、法人格はそのまま

ただし、議決権を行使できる過半数を超えた株式譲渡なら、譲受会社を親会社とした子会社になる

事業承継などで、譲渡会社の廃業を前提にした株式譲渡なら、その後廃業する

資産・負債 譲渡会社がそのまま保持する
株主 株式や現金などの対価を譲受会社から受け取る
従業員 譲渡会社に引き続き雇用される

ただし、子会社化した場合は、その後、親会社の譲受会社の方針で待遇が変化する可能性はある

譲渡会社が子会社化した場合、将来的に譲受会社の経営方針の影響を受けますが、吸収合併のような急激な変化は起こらないものと考えられます。

一方、株式譲渡される側の譲受会社は、譲渡会社の子会社化があったとしても、吸収合併で見られるような経営統合や組織再編する可能性は低く、あまり変わらないものと考えられます。