ノウハウ 2022/11/10

デューデリジェンスとは?種類と流れをわかりやすく解説

今までに「デューデリジェンス」という言葉を耳にしたことがある人でも、初めて聞く言葉で意味や用途を知らないという人もいるでしょう。事業経営者の中にはこれからデューデリジェンスを経験することがあるかもしれません。

当記事ではデューデリジェンスの意味や種類を解説します。手続きの流れも解説しているので、企業や事業の買収や売却を検討している人は参考にしてみてください。

デューデリジェンスとは企業を調査すること

デューデリジェンスとは、売り手企業の経営状況や企業価値を調査することを意味します。売り手企業との「基本合意契約」の締結後に、買い手企業によって実施されます。デューデリジェンスを行う目的は3つあるので確認しておきましょう。

【デューデリジェンスを行う目的】

  • 企業の現状を把握する
  • 買収した際のリスクやリターンを把握する
  • 今後の経営方針を決める材料を得る

買い手企業は、売り手企業の現状を知ることで強みや弱み、市場での立ち位置を把握します。また、取引を成立させ買い手企業が保有することになったときに引き起こす可能性のあるリスクやリターンを顕在化させ、企業の透明性を高めます。

デューデリジェンスは売り手企業について理解する重要な機会になるため、手にした情報から今後の経営方針や事業計画を立てる糸口をつかむことも目的としています。買い手企業が売り手企業との取引を成功させるために実施するのがデューデリジェンスです。

デューデリジェンスはさまざまな場面で実施される

デューデリジェンスが実施されるのは買い手企業が売り手企業について調査する必要があるときです。デューデリジェンスが実施される場面がいくつかあるので確認しておきましょう。

【デューデリジェンスが実施される場面】

  • M&A(企業の合併や買収)
  • 事業譲渡
  • 投資(主に不動産)

デューデリジェンスは2社が取引に関わっている場合に実施されます。売り手企業は、デューデリジェンスの結果に基づいて買い手企業との契約を締結する価値があるのかを判断します。

デューデリジェンスは部門ごとに分類される

デューデリジェンスは様々な分野で実施され、数多くの種類があります。M&Aや事業譲渡を検討している人は、どのように分類分けされるのか、主なデューデリジェンスの種類とその調査の詳細を確認しておきましょう。

【デューデリジェンスの一例】

種類 内容 調査項目
事業デューデリジェンス 売り手企業の経営・事業を総合的に調査し、買収するに値する企業であるかを判断する 事業内容、競合、仕入先、顧客、製品・サービス、市場、技術
財務デューデリジェンス 売り手企業の財務状況を調査し、安全性や危険性を把握することで企業運営や事業計画の策定に役立てる 決算書・総勘定元帳、予算表、事業計画書、監査法人による報告書、金融機関への提出書類、簿外債務に関する書類
法務デューデリジェンス 売り手企業の株式や組織の法律面に関する調査を行い、法的リスクを把握する 契約、株主、許認可、訴訟、債務
税務デューデリジェンス 売り手企業の納税状況など税金に関する調査を行い、税務リスクの把握やリスクへの対処法を取り決める 各税金の納税状況、税務申告書、税務処理に関する資料
人事デューデリジェンス 売り手企業の人事制度について調査し、人事問題の発生を回避する 人員数、人件費、労使関係、評価制度、採用状況、人事戦略
ITデューデリジェンス 売り手企業の情報システムを調査し、ITの活用や導入、刷新の計画を行う 財務会計システム、人事労務システム、顧客管理システム、販売管理システム
知的財産デューデリジェンス 売り手企業が所有する不動産の価値や法的健全性を調査し、買収した際のリスクを検討する 市場価格、適法性、立地や周囲の環境、所有権や登記などの権利関係、建物の耐震性
不動産デューデリジェンス 売り手企業が所有する知的財産の価値を調査し、今後の事業への活用や展望を検討する 特許権、著作権、技術

上記のデューデリジェンスの種類以外にも「環境デューデリジェンス」「顧客デューデリジェンス」「人権デューデリジェンス」や売り手企業が事前に自社の調査を行い、問題点を把握する「セルサイドデューデリジェンス」などがあります。

全ての調査を行おうとすると多くの時間や費用を費やすことになるので、企業の特徴や状況に応じて必要な調査を行うようにしましょう。

デューデリジェンスの流れ

デューデリジェンスを実施するうえで、売り手企業の情報を調査し把握することが主な業務内容です。

売り手企業の調査に加えて、ミーティングなどの事前準備から最終判断のための事後討論までがデューデリジェンスに含まれます。M&Aや事業譲渡を検討している人は、デューデリジェンスの一連の流れを確認し、実際の行動を把握しておきましょう。

【デューデリジェンスの流れ】

  1. 実施方針の決定
  2. 基本情報の確認
  3. キックオフミーティングの開催
  4. 売り手企業に請求する資料リストの作成
  5. 開示資料の確認
  6. 売り手企業へのインタビュー
  7. 最終報告、討論
  8. 調査結果に基づいた検討

デューデリジェンスは、最終的な契約締結の判断の材料となり重要な役割を果たしているので、買い手企業の間では慎重なミーティングや討論が行われます。想定よりも時間がかかり、なかなか意見が一つにまとまらないこともあります。期間に余裕をもって行うようにしましょう。

①実施方針の決定

デューデリジェンスを行う第1段階として、実施の方針を決定します。方針決定は買い手企業の経営陣のみで行います。

【事前に決定する内容】

  • 実施するデューデリジェンスの種類
  • デューデリジェンスを実施する機関
  • デューデリジェンスにかける費用
  • 依頼するデューデリジェンスの種類とその専門家

デューデリジェンスは多くの場合、買い手企業が専門家に依頼して行われています。専門家に依頼した場合、どのくらいの費用がかかるのか、予算の見積もりをあらかじめしておきましょう。

また、途中で急遽実施するデューデリジェンスを追加することもあるので、非常事態にも対応できるようにしましょう。

②基本情報の確認

実施内容を決定したのち、現段階で売り手企業から開示されている基本情報を確認します。デューデリジェンスでは数多くの資料を扱うため、情報を的確に把握し要領よく資料を整理する必要があります。

また、多くの種類のデューデリジェンスを行う場合は、どの資料がどのデューデリジェンスに対応しているかを確認し、分類しておきましょう。

【確認すべき基本情報】

  • 貸借対照表
  • 損益計算書
  • 登記簿謄本
  • 事業計画書
  • キャッシュフロー計算書
  • 試算表
  • 株主リスト
  • 取引先リスト

デューデリジェンスの最初段階では、財務諸表や事業に関する書類など売り手企業の基本的な情報を確認しましょう。

③キックオフミーティング

基本情報を確認したのち、買い手企業の経営陣に加えてデューデリジェンスを依頼する専門家を含めたミーティングを行います。キックオフミーティングでは、依頼する専門家に対して事前に決定したデューデリジェンスの実施方針の報告や売り手企業の基本情報の共有を行います。

④売り手企業に請求する資料リストの作成

デューデリジェンスを実施するためには多くの資料が必要となります。基本情報を確認する際に、不足している情報を把握し売り手企業に請求する追加資料リストを作成しましょう。どの分野のデューデリジェンスを実施するかによって必要な資料が異なるので、事前に把握しておきましょう。

売り手企業は請求資料リストを受け取り次第、迅速に対応する必要があります。買い手企業が提示した期日までに資料を提出できない場合、デューデリジェンスが完了するまでの期間が長くなり契約締結がスムーズに進まない可能性もあるので注意しましょう。

⑤開示資料の確認

売り手企業から提出された追加資料を含めすべての情報を整理、確認し、企業の現状や買収後のリスク、リターンなどの分析を行います。買い手企業の経営陣やデューデリジェンスを依頼する専門家が終結して開催されるキックオフミーティングで、確認すべき観点を明確にしておくことで分析を順調に進めることができます。

また、分析を行っている途中で必要だと判断された資料を追加で売り手企業に依頼することができますが、その分期間が延長してしまう可能性があることを把握しておきましょう。

⑥売り手企業への質疑応答

デューデリジェンスを買い手企業から依頼された専門家は、売り手企業の経営者に対して質疑応答を行う時間が設けられます。インタビュー形式で行う対面ヒアリングや、Q&Aシートを用いて書面上で行う質疑応答などによって専門家が売り手企業の経営者と直接コミュニケーションをとります。

質疑応答が売り手企業の情報を得る最後の段階なので、把握すべき情報はすべて確認するようにしましょう。

⑦最終報告および討論

専門家は請求した資料確認による分析や売り手企業への質疑応答から得た情報をまとめ、依頼された内容を報告するためのレポートを作成します。完成させたレポートをもとに、買い手企業の経営陣にプレゼンを行います。買い手企業は、専門家による報告に基づいて売り手企業との取引を行うのかを討論します。

⑧結果に基づいた検討

買い手企業はデューデリジェンスの結果を踏まえて討論を重ね最終的な判断を行います。買い手企業の選択として想定される結論を確認しておきましょう。

【想定される買い手企業の結論】

  • 大きなリスクが見られなかったため、これまで通りの条件で契約を締結
  • リスク可能性を考慮して、売り手企業に価格交渉し契約を締結
  • 大きな問題点が見られたため、買収を中止

契約の締結により、買い手企業に十分な利益が見込まれる場合は条件を変更することなく契約締結の判断を行いますが、損失を被る場合は新たな価格交渉や契約そのものを破棄することもあります。

専門家への調査依頼や売り手企業との交渉、企業内での討論の積み重ねなど、時間や費用をかけてきたなかで最終判断をおこなう際には、デューデリジェンスの結果を参考にして慎重な選択を心掛けましょう。

まとめ

デューデリジェンスは売り手企業との契約を締結するかどうかを最終判断する重要な役割を果たすので、どんな情報が必要か、どのくらいの費用がかかるか、どのくらいの期間で完了させるかを事前に決めておいて、途中で行き詰らないようにしましょう。

また、買い手企業は売り手企業から取得した情報を外部に漏らさないために徹底的な管理をすることを意識しましょう。秘密保持契約書の条件にもよりますが、機密情報が流出した場合、契約破棄にとどまらず損害賠償を請求されることもあるので注意しましょう。