ノウハウ 2022/11/9

M&Aの目的とは?売却側と買収側の立場に応じて解説

中小企業庁の2021年度版「中小企業白書」によると、2019年のM&Aの件数は4,088件でした。翌年2020年には感染症流行の影響もあり、3,730件と前年に比べ若干減少していますが、それでも比較的多いことがわかります。

経営者として、企業として成長したい人のなかにはM&Aに興味がある人もいますよね。当記事ではM&Aを利用する人たちがどのような目的でM&Aを利用するのか解説していくので、ぜひ参考にしてみてください。

M&Aの目的は売り手側と買い手側で異なる

M&Aをおこなう目的には売り手側から見たときの目的と買い手側から見たときの目的があります。売り手とはM&Aを行うことで、事業や企業を売却したい人のこと、買い手とはM&Aを行うことで、事業や企業を買収したい人のことです。

売り手側と買い手側それぞれの立場からの目的を理解し、お互いの目的が達成できるようにしましょう。

売却側から見たときのM&Aの目的

M&Aを考えている人は、同じようにM&Aを考えていた人が、どのような目的でM&Aを実行したのか学び、M&Aを実行する際に役立てられるようにしましょう。

【売却側から見たときのM&Aの目的の一例】

  • 事業継承をするため
  • コア事業へ集中するため
  • 創業者の利益を確保するため
  • 債務をなくすため

事業継承をするため

事業承継をするためにM&Aを行う売り手もいます。

中小企業庁の2021年度版「中小企業白書」によれば、売り手としてM&Aを検討した理由の3番目に多かったものとして、後継者不在が挙げられています。後継者不在とは、現在会社を経営している経営者が、高齢や病気などで経営から退きたいが、後継となる人がいない問題のことです。

このような問題により廃業せざるを得なくても、M&Aで事業を売却すれば事業を継続させることができます。

M&Aによって事業継承を行えば、これまで企業が蓄積してきたノウハウや技術を失うことなく、事業を続けることができます。また、M&Aで廃業を回避することができれば、廃業費用の削減や従業員の雇用の確保も可能です。

事業継承について詳しく知りたい人は「事業承継・引継ぎ支援センター」を参考にしてみてください。

コア事業へ集中するため

コア事業へ集中するためにM&Aを行う売り手もいます。赤字経営やあまり利益が上がらない弱みとなる事業を売却し、利益率が高く業績が良好なコア事業に資源を集中させることで、より効率的に事業を成長させられるためです。

中小企業は大企業と比べて、資金や人材、技術、設備などの経営資源に限りがあります。そのため、効率的な事業運営を行うためには、事業の整理を行う必要があります。

また、現在利益が出ている事業でも、社会のトレンドや世界情勢などで近い将来負債を抱えてしまう事業になる可能性もあるため、採算が取れるうちに売却するという手もあります。

存続が難しいと判断した事業はM&Aを実行し売却することで、自社の最も得意な事業に経営資源を集中させ、より効率的な経営を目指すことが重要です。

創業者の利益を確保するため

創業者としての利益を確保するためにM&Aを行う売り手もいます。事業譲渡では会社がM&Aの対価を受け取り、創業者は対価の一部を退職金として受け取ることが可能なためです。

なお、退職金の手続きの流れは大きく分けて6つあります。

【退職金の手続きの流れ】

  • 退職金の金額を会社の就業規定などに従い算出する
  • 退職者に退職所得の需給に関する申告書を書いてもらう
  • 退職金にかかる所得税と住民税の源泉徴収の税額を算出し、納付する
  • 法定調書合計表を作成する
  • 退職所得の源泉徴収票、特別徴収票を作成し、退職者に発行する
  • 給与所得者異動届出書を市区町村に提出

受け取った退職金は引退後の生活や、新しい事業を起こすための資金に充てることができます。また、近年ではM&Aでの売却を前提として起業し、ある程度売却価値が出てきたら売りに出し、また新しい事業を起こす連続起業家もいます。

なお、退職金の金額は会社の就業規定などに従い算出します。退職金の支払いは法律で定められているものではなく、各会社が定めるものです。就業規則などに定められている計算方法に基づき退職金の金額を決定しましょう。

債務をなくすため

債務をなくすためM&Aを行う売り手もいます。中小企業が資金を調達する方法としては、金融機関からの融資を活用するのが一般的です。こうした債務は経営を圧迫してしまうこともあり、経営者にかかる精神的な負担も大きいといった問題があります。

このような経営上あるいは精神的な負担をなくすためにM&Aで赤字の事業を売却し、債務を買収側に引き継ぐためにM&Aを活用する人もいます。

M&Aを行う際は、事業を買収する相手側に債務があることを正直に伝え、債務ごと事業を買ってもらえるか確認しましょう。

買収側から見たときのM&Aの目的

M&Aで企業を買収したい人は、売却側がどのような目的でM&Aを実行するのか学び、お互いが有意義なM&Aをできるように準備しましょう。

【売却側から見たときのM&Aの目的の一例】

  • 人材、ノウハウを確保するため
  • 新規事業へ参入をしやすくするため
  • 事業を多角化させるため
  • 競合他社を買収し、成長するため
  • 海外へ進出するため

人材やノウハウを確保するため

人材やノウハウを確保するためにM&Aを行う買い手もいます。M&Aを行うことで買収した相手側の人材や技術力、顧客情報などのノウハウを獲得することができるためです。

人材やノウハウを確保することができれば、買い手の既存事業に売り手の技術力などが加わり、事業のさらなる成長を見込むことができます。後継者がいない企業は買収先の企業から優秀な人材を引き抜き、後継者として育てることも可能です。

ただし、必ずしも自社の事業や文化、理念にあった人材が見つかるわけではないため、想定していたシナジー効果が見込めない可能性があることに注意しましょう。

買い手としてM&Aをおこないたい人は、自社の事業にあった人材であるか、シナジー効果をもたらしてくれるような事業であるか確認してからM&Aを行うようにしましょう。

新規事業へ参入をしやすくするため

新規事業へ参入しやすくするためにM&Aを行う買い手もいます。自社で新規事業に参入するときにかかるさまざまなコストを削減することができるためです。

【新規事業を立ち上げる際に必要なコストと概要】

コストの種類 概要
イニシャルコスト

(初期費用)

・事業を始める際に必要な費用のこと
・事業の開始後でも、新しく機器を導入するためにかかる費用もイニシャルコストに当たる
例) 登記費用、オフィスの契約費用、設備費用、広告宣伝費用
ランニングコスト

(維持費)

・新規事業の準備費用が終わり、開始された事業を継続するためにかかるコストのこと
・事業が継続する限り発生するため、売り上げや利益の予測に大きくかかわる
例) 賃貸費用、光熱費、消耗品の購入費用、人件費、税金

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新規事業を立ち上げる場合、ゼロから立ち上げるとなると、資金的、技術的、時間的コストがかかってしまい、思い通りの結果にならない可能性があります。しかし、M&Aで新規事業に関する企業を買収することができれば、これらのコストを大幅に削減することができます。

優秀な人材や新規事業と同じような分野の事業を買収することができなければ、想定していたシナジー効果を得ることができず、かえって成長スピードを低下させてしまう可能性もあります。

そのため、買い手としてM&Aをおこないたい人は、事前に事業にあった人材や類似した分野の事業なのか確認するようにしましょう。

事業を多角化させるため

事業を多角化させるためにM&Aを行う買い手もいます。

M&Aによって新しく事業を買収して主軸となる事業を増やすことができれば、収益を増やすことができます。さらに、流行の低下や資源不足などで一つの事業が赤字になってしまっても、別の事業で負債をおぎなうリスクヘッジ効果も見込めます。

既存の事業が成功しており、今以上に成長したい、資金に余裕があるという人は、M&Aで事業を買収することで多角化を目指すことを検討してみましょう。

競合他社を買収し、成長するため

競合他社を買収し、自社をより成長させるためM&Aを行う買い手もいます。

競合他社を買収することができればこれまで他社が占めていた市場シェアをそのまま自社のシェアにすることができるためです。

また、競合他社の技術やノウハウを獲得することで、既存の事業のレベルをより高くすることができるほか、新たな分野や商品を開発することが可能となります。

競合他社を買収できればこれまでの事業をより進化させることができたり、新たな分野に進出することができたりします。

競合関係であれば、売り手が買収されることを嫌がったり、キーマンとなる人材が離職して士気が下がってしまったりする可能性があります。そのため、買い手としてM&Aをおこないたい人は相手企業が買収に抵抗がないかどうか事前に確認しておくようにしましょう。

海外へ進出するため

M&Aを活用し、海外進出の機会を増やす買い手もいます。

M&Aで海外に事業エリアを持つ企業を買収することができれば、海外への販売ルートを獲得できます。さらに、原材料の仕入れがより安価に行うことができたり、海外の優秀な人材を引き抜くことができたりすることも可能です。

M&Aを行うことによる海外進出はメリットも多いですが、日本とは文化や言語が異なるため、コミュニケーションがとりにくいといったデメリットも存在します。

そのため、買い手としてM&Aをおこないたい人は現地の言葉が話せる従業員を雇う、お互いの文化を学ぶ機会を作るといった人材管理を行うようにしましょう。

まとめ

M&Aを行う目的には買収側と売却側のそれぞれに理由があります。お互いがどのような考えを持ってM&Aを行うのか理解し、歩み寄れるようにしましょう。

売却側から見たときのM&Aの目的は、事業継承をするため、コア事業へ集中するため、創業者の利益を確保するためなどです。売却側の目的の共通点として、次へのステップを踏むためのM&Aが多いことがわかります。

買収側から見たときのM&Aの目的は、人材やノウハウの確保、新規事業への参入、事業の多角化などです。買収側の目的の共通点として既存の事業や新しく始める事業の成長スピードを上げるためのM&Aが多いことを覚えておきましょう。

当記事で売り手側と買い手側両方のM&Aを行う目的を確認し、M&Aをより詳しく知りたいと思った人は中小企業基盤整備機構が運営する「事業承継・引継ぎ支援センター」も参考にしてみてください。