ノウハウ 2024/4/12
吸収合併の手続きとスケジュール例を解説
事業の再構築で吸収合併を検討する場合、手続きやスケジュールが気になりますよね。
本記事では、吸収合併には会社法に規定されている手続きが必要であるため、どのようなスケジュールに沿う必要があるかをご紹介します。
吸収合併の意味などの基本を知りたい方は関連記事「吸収合併とは?意味や類語との違いやメリットを解説」をご覧ください。
吸収合併の手続きとスケジュール例
事業年度の開始にあわせて4月1日に吸収合併を有効とする手続きの流れを解説します。
【吸収合併の流れとスケジュール】
フェーズ | 具体的な手続き | 備考 | |
1月 | 事前準備 | 合併する会社間で交渉を進める | 会社法で定める以外の経営統合・組織再編の手続きが別途必要 |
2月 | 内部承認・契約締結 | 取締役会で承認決議
合併契約の締結 |
合併契約書などの事前開示書類は本店に備え置く |
法的手続き | 債権者へ異議申述公告・個別催告 | 債権者へ異議申述期間は1カ月以上必要で、吸収合併の効力発生の前に期間満了 | |
3月 | 法的手続き | 株主総会招集の通知
株式買取請求権を行使する株主への通知または公告 株主総会での承認決議 |
吸収合併に反対する株主の株式買取請求は効力発生日の二十日前の日から効力発生日の前日までの間 |
4月 | 吸収合併の効力発生 | 変更登記、解散登記 | 合併契約書などの事後開示書類は本店に備え置く |
「事前開示書類」とは吸収合併の効力発生前から開示する書面、「事後開示書類」とは効力発生後に開示する書面を意味します。
なお、必要な手続きは次のとおりです。
- 取締役会で承認決議
- 合併契約の締結
- 債権者へ異議申述公告・個別催告
- 株式買取請求権を行使する株主への通知または公告
- 株主総会招集の通知と、株主総会での承認決議
- 変更登記(存続する会社のみ)
- 解散登記(消滅する会社のみ)
会社法で明記されている手続きには、吸収合併が有効となるための期間が定められているため、特に「通知・公告」のタイミングには注意する必要があります。
フェーズごとに、手続きを解説します。
吸収合併で消滅する会社についての対応は「会社法 第二節 吸収合併等の手続 第一款 吸収合併消滅会社、吸収分割会社及び株式交換完全子会社の手続」、吸収合併で存続する会社についての対応は「会社法 第二節 吸収合併等の手続 第二款 吸収合併存続会社、吸収分割承継会社及び株式交換完全親会社の手続」に定められています。
事前準備
合併する会社間で交渉を進め、存続会社となる会社の方針のもと、経営統合・組織再編を行う折衝を行います。
経営統合・組織再編に関しては会社法では特に定められていないため、会社間で話し合い、吸収合併の手続きと並行して準備を進める必要があります。
なお、吸収合併を行う場合は税務処理が煩雑になるため、可能であれば、吸収合併の効力を発生する日を「存続する会社の事業年度の開始日」に合わせるとよいでしょう。
存続する会社、消滅する会社、どちらの社員も不安にさせないよう、早めに通知し、説明責任を果たしましょう。
特に、大幅に労働環境が変わる可能性が高いのは、吸収合併で消滅する方の会社に所属する社員です。
吸収合併で社員がどうなるかを知りたい方は関連記事「吸収合併で社員の待遇はどうなる?」をご覧ください。
内部承認・契約締結
合併の大筋が決まったら、それぞれの取締役会で承認決議を行い、社内の合意を形成します。
承認後、吸収合併の契約書を作成し、締結します。
なお、吸収合併を行う会社(吸収合併存続株式会社と吸収合併消滅株式会社)はいずれも、吸収合併契約等に関する書面または電磁的記録(事前開示書類等)を本店に備え置くよう、会社法で定められています。
参照:会社法 第七百八十二条(吸収合併契約等に関する書面等の備置き及び閲覧等)、第七百九十四条(吸収合併契約等に関する書面等の備置き及び閲覧等)|e-Gov
法的手続き
吸収合併に必要な手続きとして、存続する会社も、消滅する会社も、債権者や反対株主についての対応が会社法で定められています。
債権者へは異議申述公告・個別催告を行う必要がありますが、異議申述期間は1カ月以上必要と規定されているため、吸収合併の効力発生の前にその期間満了させるには、反対株主や株主総会の通知よりも優先して進める必要があります。
第七百八十九条(債権者の異議)
次の各号に掲げる場合には、当該各号に定める債権者は、消滅株式会社等に対し、吸収合併等について異議を述べることができる。
(一部省略)
2 前項の規定により消滅株式会社等の債権者の全部又は一部が異議を述べることができる場合には、消滅株式会社等は、次に掲げる事項を官報に公告し、かつ、知れている債権者(同項の規定により異議を述べることができるものに限る。)には、各別にこれを催告しなければならない。ただし、第四号の期間は、一箇月を下ることができない。
(一部省略)
四 債権者が一定の期間内に異議を述べることができる旨
引用:会社法|e-Gov第七百九十九条(債権者の異議)
次の各号に掲げる場合には、当該各号に定める債権者は、存続株式会社等に対し、吸収合併等について異議を述べることができる。
(一部省略)
2 前項の規定により存続株式会社等の債権者が異議を述べることができる場合には、存続株式会社等は、次に掲げる事項を官報に公告し、かつ、知れている債権者には、各別にこれを催告しなければならない。ただし、第四号の期間は、一箇月を下ることができない。
(一部省略)
四 債権者が一定の期間内に異議を述べることができる旨
引用:会社法|e-Gov
また、吸収合併は、株主総会での承認決議も必要であるため、株主総会招集の通知も早めに行いましょう。
第七百八十三条(吸収合併契約等の承認等) 消滅株式会社等は、効力発生日の前日までに、株主総会の決議によって、吸収合併契約等の承認を受けなければならない。
引用:会社法|e-Gov(第七百九十五条(吸収合併契約等の承認等)
存続株式会社等は、効力発生日の前日までに、株主総会の決議によって、吸収合併契約等の承認を受けなければならない。
引用:会社法|e-Gov
なお、株式買取請求権を行使する反対株主や新株予約権者への対応も「効力発生日の二十日前の日から効力発生日の前日までの間」という規定があるので、注意しましょう。
第七百八十五条(反対株主の株式買取請求)
吸収合併等をする場合(次に掲げる場合を除く。)には、反対株主は、消滅株式会社等に対し、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができる。
(一部省略)
5 第一項の規定による請求(以下この目において「株式買取請求」という。)は、効力発生日の二十日前の日から効力発生日の前日までの間に、その株式買取請求に係る株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)を明らかにしてしなければならない。
引用:会社法|e-Gov
第七百九十七条(反対株主の株式買取請求)
吸収合併等をする場合には、反対株主は、存続株式会社等に対し、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができる。ただし、第七百九十六条第二項本文に規定する場合(第七百九十五条第二項各号に掲げる場合及び第七百九十六条第一項ただし書又は第三項に規定する場合を除く。)は、この限りでない。
(一部省略)
5 第一項の規定による請求(以下この目において「株式買取請求」という。)は、効力発生日の二十日前の日から効力発生日の前日までの間に、その株式買取請求に係る株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)を明らかにしてしなければならない。
引用:会社法|e-Gov
第七百七十七条(新株予約権買取請求)
(一部省略)
3 組織変更をしようとする株式会社は、効力発生日の二十日前までに、その新株予約権の新株予約権者に対し、組織変更をする旨を通知しなければならない。
(一部省略)
5 新株予約権買取請求は、効力発生日の二十日前の日から効力発生日の前日までの間に、その新株予約権買取請求に係る新株予約権の内容及び数を明らかにしてしなければならない。
引用:会社法|e-Gov
第七百八十七条(新株予約権買取請求)
(一部省略)
3 次の各号に掲げる消滅株式会社等は、効力発生日の二十日前までに、当該各号に定める新株予約権の新株予約権者に対し、吸収合併等をする旨並びに存続会社等の商号及び住所を通知しなければならない。
一 吸収合併消滅株式会社 全部の新株予約権
(一部省略)
5 新株予約権買取請求は、効力発生日の二十日前の日から効力発生日の前日までの間に、その新株予約権買取請求に係る新株予約権の内容及び数を明らかにしてしなければならない
引用:会社法|e-Gov
吸収合併の効力発生
吸収合併の効力発生した後は、2週間以内に変更登記を行う必要があります。
会社が吸収合併をしたときは、その効力が生じた日から二週間以内に、その本店の所在地において、吸収合併により消滅する会社については解散の登記をし、吸収合併後存続する会社については変更の登記をしなければならない。
引用:会社法 第九百二十一条(吸収合併の登記)|e-Gov
また、消滅する会社の方は、消滅届の手続きも必要です。
参照:D1-16 合併による法人の消滅届出手続|国税庁
その他、吸収合併で消滅した会社はどうなるのかについて詳しく知りたい方は関連記事をご連絡ください。
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