ノウハウ 2024/4/12

吸収合併とは?メリットや手続きの流れを解説

事業の再構築を考える際に、吸収合併という選択肢が出てくることがあるでしょう。

本記事では、吸収合併の意味、類語の新設合併・吸収分割・子会社化との違い、吸収する側と吸収される側の合併のメリットやデメリット、手続きの流れ、よくある質問についてご紹介します。

吸収合併の意味

吸収合併(きゅうしゅうがっぺい:Absorption-type Merger)とは、会社法に定義された企業合併の一種で、複数の企業の中で1つの会社の法人格を残し、その存続する会社に消滅する会社のすべての権利義務を合併後に引き継がせることを意味します。

「すべての権利義務」とは、株式や事業用資産、従業員との雇用契約や取引先との契約、技術やノウハウなど、会社を構成するすべてが対象となります。

第二条(定義)二十七 吸収合併 会社が他の会社とする合併であって、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併後存続する会社に承継させるものをいう。
引用:会社法|e-Gov

簡単に言えば、1つの会社をそのまま残し、他の会社を吸収して1つにまとめる、というのが吸収合併です。

吸収合併と新設合併の違い

吸収合併と新設合併の違いは「新しく会社をつくるか否か」です。

【吸収合併と新設合併の違い】

吸収合併 新設合併
合併する会社の中で1つを残し、他は全て吸収される 合併するすべての会社が、新会社に統合される

吸収合併の類語に、新設合併(しんせつがっぺい:Merger)があります。
新設合併も、会社法で定義された企業合併の一種で、新会社を設立し、そこに消滅させる会社のすべての権利義務を引き継がせることを意味します。

第二条(定義)二十八 新設合併 二以上の会社がする合併であって、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併により設立する会社に承継させるものをいう。
引用:会社法|e-Gov

新設合併について詳しく知りたい方は関連記事「新設合併とは?メリットや類語との違いを解説」をご覧ください。

吸収合併と吸収分割の違い

吸収合併の類語に、吸収分割(きゅうしゅうぶんかつ:absorption-type split)があります。

吸収合併と吸収分割の違いは「事業に関する権利義務が元の会社と無関係になるか否か」です。

【吸収合併と吸収分割の違い】

吸収合併 吸収分割
事業に関する権利義務は合併後に存続する1つの会社にまとめられる 分割した事業が別の会社に移転すると、その事業は元の会社とは無関係になる

吸収分割は、会社法で定義された企業分割の一種で、特定の事業に関する権利義務の一部、あるいはすべてを分割し、別の企業に引き継がせることを意味します。

第二条(定義)二十九 吸収分割 株式会社又は合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割後他の会社に承継させることをいう。
引用:会社法|e-Gov

吸収合併と子会社化との違い

吸収合併と子会社化の違いは「組織を統合するか否か」です。

【吸収合併と子会社化の違い】

吸収合併 子会社化
合併後は存続会社の1社のみ残る 親会社と子会社の2社がそのまま残る

子会社化とは、会社法で定義される子会社の状態にすること、つまり、自社の傘下に組み入れて子会社とした企業の経営権を持つことを意味します。

第二条(定義)三 子会社 会社がその総株主の議決権の過半数を有する株式会社その他の当該会社がその経営を支配している法人として法務省令で定めるものをいう。
引用:会社法|e-Gov

子会社を吸収合併できる?

子会社とした会社を、その後、吸収合併することは可能です。

子会社化の場合、吸収合併に比べると経営統合や組織再編の必要性が少ないため、子会社化して親会社の事業方針に慣れさせてから吸収合併する、という方法は合理的な方法と言えます。

ただし、資産・負債が親会社に引き継がれる点、子会社の株主に対する対価の算定方法や交付方法については検討する必要があるでしょう。

吸収合併される側のメリットとデメリット

【吸収合併される側(被合併会社)のメリットとデメリット】

吸収合併されるメリット 吸収合併されるデメリット
  • 経営の行き詰まりを解消し、事業の継続や拡大を図れる
  • 存続会社から株式や現金などの対価を受け取り、資金調達が行える
  • 存続会社の経営ノウハウや経営資源を活用し、経営の安定化を図れる
  •  存続会社に吸収されると、自社の法人格を失い、経営権を失う
  • 経営統合・組織再編の必要があり、存続会社に合わせて変更する必要がある
  • 従業員の雇用契約や福利厚生などの待遇が変化する可能性がある

吸収合併する側のメリットとデメリット

【吸収合併する側(存続会社、合併法人)のメリットとデメリット】

吸収合併するメリット 吸収合併するデメリット
  • 被合併会社の事業や資産を承継し、存続会社の経営基盤を強化できる
  • 被合併会社の従業員や設備、ブランド力などを効率的に活用し、生産性や収益性、知名度を向上できる
  • 重複する事業や機能を統合して、コスト削減できる
  •  被合併会社の財務状況によっては、存続会社の財務状況が悪化する可能性がある
  • 顧客や取引先が重複する場合、売上が減少する可能性がある
  • 税務上、合併損益が発生して、税負担が増加する可能性がある

吸収合併の方法と手続きの流れ

事業年度の開始にあわせて4月1日に吸収合併を有効とするケースを例に、手続きの流れを解説します。

【吸収合併の流れとスケジュール】

フェーズ 具体的な手続き 備考
1月 事前準備 合併する会社間で交渉を進める 会社法で定める以外の経営統合・組織再編の手続きが必要
2月 内部承認

契約締結

  • 取締役会で承認決議
  • 合併契約の締結
  • 債権者へ異議申述公告・個別催告
合併契約書などの事前開示書類は本店に備え置く

債権者へ異議申述期間は1カ月以上必要で、吸収合併の効力発生の前に期間満了

3月 法的手続き
  • 株主総会招集の通知
  • 株式買取請求権を行使する株主への通知または公告
  • 株主総会での承認決議
吸収合併に反対する株主の株式買取請求は効力発生日の二十日前の日から効力発生日の前日までの間
4月 吸収合併の効力発生 変更登記 合併契約書などの事後開示書類は本店に備え置く

なお、「事前開示書類」は吸収合併の効力発生前から開示する書面で、「事後開示書類」は効力発生後に開示する書面を意味します。

吸収合併は会社法で定められているため、吸収される側は「第一款 吸収合併消滅会社、吸収分割会社及び株式交換完全子会社の手続」に従い、吸収して存続する側は「第二款 吸収合併存続会社、吸収分割承継会社及び株式交換完全親会社の手続」に従います。

参照:会社法 第二節 吸収合併等の手続|e-Gov

吸収合併についてのよくある質問(FAQ)

吸収合併についてのよくある質問について回答します。

  • 吸収合併される側の会社はどうなるのか?
  •  吸収合併する側の存続会社はどうなるのか?
  •  吸収合併で、社員はどうなるのか?
  •  吸収合併で、役員はどうなるのか?

吸収合併される側の会社はどうなるのか?

吸収合併される側の会社は無くなり、吸収合併する側の会社(存続会社)に一本化されます。

【吸収合併される側の会社の主な変化】

会社 法人格が消滅
資産・負債 存続会社に引き継がれる
株主 株式や現金などの対価を存続会社から受け取る
従業員 存続会社に雇用される

なお、吸収合併される側の会社は、合併される会社という意味の「被合併会社」と呼ばれるほか、会社法では「吸収合併消滅株式会社」とも呼ばれます。

吸収合併で消滅する会社について詳しく知りたい方は関連記事「吸収合併で消滅する会社はどうなる?株式や銀行口座、税務申告を解説」をご覧ください。

吸収合併する側の存続会社はどうなるのか?

吸収合併する側の存続会社(合併会社)は、メリット・デメリットでも解説したように、被合併会社の財務状況によっては税務上のリスクは存在するものの、被合併会社ほど大きく経営統合・組織再編される可能性は低く、あまり変わらないものと考えられます。

吸収合併で、社員はどうなるのか?

吸収合併する側の存続会社(合併会社)の社員は、これまでどおり、給与や手当など雇用契約や、福利厚生制度が変わることはありません。

吸収合併によって消滅する側の会社(被合併会社)の社員の待遇は、原則、承継されます。

ただし、会社間の吸収合併契約で規定されるため、存続会社に寄せた変更が入る可能性はあり、ケースバイケースです。

吸収合併で社員がどうなるかについて詳しく知りたい方は関連記事「吸収合併で社員の待遇はどうなる?」をご覧ください。

吸収合併で、役員はどうなるのか?

吸収合併で存続する会社(合併会社)の役員の地位や権限に変更はありません。

吸収合併で消滅する会社(被合併会社)の役員は、合併の効力発生と同時に、役員としての地位を失います。

ただし、存続会社に受け入れられた場合、存続会社でも役員に就任する可能性はあります。

存続会社で役員に就任しない場合、福利厚生制度によっては退職金などの退職手当を受け取ったり、存続会社から再就職の支援を受けたりする可能性があります。