ノウハウ 2022/11/18

M&Aで企業を売却する流れを解説

企業の売却を検討中の人の中には、M&Aの流れや必要な期間を知りたいと考えている人もいるでしょう。

M&Aには多くの工程があり、売り手と買い手がお互いに納得のいく条件で取引を完了させるには半年以上の期間が必要です。また、法律や金融に関する専門知識も求められるため、M&A専門の支援機関からのサポートを受けることが推奨されています。

この記事では、M&Aで企業を売却する流れを解説します。企業の売却にかかる税金についても取り上げているので、これから企業の売却を考えている人は参考にしてみて下さい。

M&Aで企業を売却する流れ

M&Aでの企業の売却は、以下の流れで行われます。企業規模や交渉内容によりますが、M&Aで企業を売却するには最低でも半年~1年の期間を要すると考えておきましょう。

【準備フェーズ】期間の目安:3カ月~
・M&Aの目標設定
・M&A専門業者の選定
・必要書類の準備

【交渉フェーズ】期間の目安:6カ月~
・売却先候補企業とのマッチング
・売却先候補企業とのトップ面談
・企業の売却における条件の交渉と基本合意の締結
・売却先候補企業による経営状況やリスクなどの事前調査(デューデリジェンス)
・最終契約の締結

【クロージングフェーズ】期間の目安:1カ月~
・株式や事業の譲渡と対価の支払い

準備フェーズでは、売却先候補となる買い手企業を選定する準備を行います。M&Aの目標を明確にし、M&Aのサポートを受ける専門業者と契約して売却先候補企業を探す準備の段階です。交渉フェーズは、マッチングした企業との面談や交渉を通して、最終的なM&A契約を結ぶ企業の絞り込みを行います。クロージングフェーズは、M&Aの最終契約を締結した企業への権利の譲渡と対価の支払いが行われる、M&Aの最終段階です。

長期間を要するM&Aの流れにおいて、希望の条件で企業を売却するには売却のタイミングが関係します。経営が悪化してから買い手を探すことは困難と考え、余裕をもって行動を起こすと良いでしょう。

M&Aの目標設定

M&Aを進めるには、最初にM&Aの目標を設定します。企業を売却する目的や方向性を明確にすることで、M&Aをスムーズに進めることができるためです。

M&Aでの目標設定では、企業の売却希望金額や売却後の従業員の待遇など、買い手の企業との交渉で譲れない条件を洗い出します。また、目標だけでなく自社の経営状況や課題、M&Aの目的を具体的に把握しておくことも、スムーズな交渉を進める要因です。

最初に具体的な目標設定をすることで、希望に近い条件でのM&Aの実現につながります。目標や希望条件と合わせて、買い手企業との交渉でアピールポイントとなる独自の技術や収益力についても説明できるようにしましょう。

M&A専門業者の選定

M&Aで企業を売却するには、M&A専門業者へ依頼することが推奨されます。M&Aでは、複数の場面で法律や金融に関する専門的な知識が求められるためです。

M&Aのサポートを行う専門業者は、FA(ファイナンシャルアドバイザー)、仲介会社、マッチングプラットフォームの3つの業種に大別されます。

【M&Aのサポートを行う専門業者の特徴と概要】

FA(ファイナンシャルアドバイザー) 仲介会社 マッチングプラットフォーム
業務の範囲 M&A全般 M&A全般 マッチングプロセス(専門家の紹介やM&Aの手続きの支援などのサービスを行うものもある)
契約関係 売り手か買い手のいずれか 売り手と買い手の双方 売り手、買い手、FA,仲介会社が会員登録して利用
特徴 ・高度な企業価値評価とデューデリジェンスに対応可能 ・比較的低コストで短期間でのM&Aができる ・幅広い相手からスピーディーに候補企業を探せる
・依頼主側の利益の最大化を目指す ・売り手側には手数料が掛からない場合が多い
向いているケース 大規模なM&Aや海外企業とのM&A(経営者と株主が別の場合) 中小企業 中小企業

FAと仲介会社はどちらもM&A全般のサポートに対応していますが、FAは売り手または買い手のいずれかとの契約を結び、依頼主側の利益を最大化することを目指して相手側の企業と交渉を行います。上場企業同士や海外企業とのM&Aなど、経営陣と株主が別である場合に多く利用されるのがFAです。一方で、仲介会社は売り手と買い手の両社と契約を結び、中立的な立場で交渉を進めます。FAよりも短期間での成約となる傾向があり、中小企業同士のM&Aで利用されるケースが多いです。

最近では、オンライン上でM&Aの売り手と買い手をマッチングさせるマッチングプラットフォームのサービスも増えています。FAや仲介会社など第三者の介入をせず相手企業と直接やり取りをするため、初期費用を抑えることが可能です。ただし、マッチング以外のプロセスで外部の弁護士やFAにサポートを依頼する場合は、かえって費用が高額になるケースもあります。

M&Aの専門業者は、会社によってサポート内容や得意分野が様々です。料金体系やこれまでの実績、専門性の高いスタッフの在籍状況などを踏まえて複数の業者を比較し、自身の企業に合った業者を選定しましょう。

必要書類の準備

M&Aの売却先候補企業とのマッチングに向けた準備として、以下の書類を事前に作成しておきましょう。

【売却時の必要書類】

概要 用途 記載項目
ロングリスト 企業の売却希望条件をもとに、売却先候補企業を選出しリスト化したもの 売却先候補企業の選定 ・企業名
・所在地
・事業内容
・企業の公式サイトのURL
など
ショートリスト ロングリストの中から、より詳細な条件で売却先候補企業を5~20社程度に絞り込んだもの 売却先候補企業の選定 ・役員構成
・主要取引先
・過去数年の売上
・M&Aをした場合に想定されるリスク
など
ノンネームシート 企業名など、自社が特定される恐れのある情報を伏せて企業の情報をまとめた書類 ショートリストで絞り込んだ企業へ提出し、買い手企業が売り手企業への関心の有無を打診する ・事業内容
・企業の譲渡理由
・従業員や売上規模
・売却希望条件
など
企業概要書 ノンネームシートよりも詳細な企業情報を記載した書類 ノンネームシートに興味を持った買い手企業へ秘密保持契約締結後に提出し、実際にM&Aを進めていくかを判断する ・企業名
・具体的な業務内容
・財務状況
・役員構成
・今後の事業計画
など

ロングリストとショートリストは売却先候補の企業を探すために自身で活用する書類であり、ノンネームシートと企業概要書は売却先候補の企業へ向けて自身の企業をアピールするための書類です。これらの書類は、M&A専門業者とのヒアリングを通して作成を依頼することも可能です。

企業概要書が必要となるのはノンネームシートの提出後ですが、企業の情報を詳細に記載するため、作成に1カ月以上の期間を要するケースもあります。マッチングをスムーズに進めるためには、企業概要書も事前に作成しておくと良いでしょう。

売却先候補企業とのマッチング

M&Aにおけるマッチングとは、売り手と買い手の企業がお互いにM&Aを進める意思を固める段階です。

マッチングでは、売り手側はロングリスト・ショートリストから売却先候補となる企業に対してノンネームシートを提示します。売却先候補企業から興味を示してもらえたら、秘密保持契約を締結したのちに企業概要書を提出し、M&Aの交渉へ進むかどうかの判断が行われます。売り手と買い手の双方がM&Aを進めたいという合意に至れば、マッチングが成立するという流れです。

ノンネームシートの提出は基本的にはM&A専門業者を通して行われます。マッチングプラットフォームを利用している場合、登録時にノンネームシートとして匿名で企業情報を入力するため企業への提出は不要です。

マッチングの時点では売却先候補の企業を1社に絞る必要は無いため、複数の企業とマッチングをして、より希望の条件に合う企業を選定しましょう。

売却先候補企業とのトップ面談

マッチングした企業とは、経営陣同士のトップ面談を行います。

トップ面談は両者の経営陣が直接顔を合わせて面談を行い、お互いの事業に関する疑問を解消して理解を深める場です。トップ面談の出席者は意思決定権者である株主と経営者を主体に行われますが、M&A専門業者のアドバイザーも同席するケースがあります。

トップ面談では、書面上では分からない相手の人柄や事業に対する思いを知ることができます。回数は必ずしも1回とは限らないので、事業に対する価値観や今後のビジョンをお互いに確認し合い、コミュニケーションを通じて信頼関係を築いていきましょう。

なお、売却先候補企業への具体的な条件の交渉は、トップ面談では行いません。面談の中で条件の交渉を行ってしまうと、意見が対立した場合に関係が悪化し、相手の企業へ不信感を抱く原因となるためです。

売却条件の交渉はFAや仲介業者を通じて、トップ面談の後に行いましょう。

企業の売却条件の交渉と基本合意の締結

企業の売却条件について、M&A専門業者を通して買い手企業との交渉を行うことができます。

売却条件の交渉では、バリュエーションと呼ばれる企業価値評価をもとに、客観的で現実的な価格を提示してお互いの立場を尊重することが大切です。売り手と買い手の双方が条件に納得したら、事業の譲渡時期や金額、譲渡方法などが具体的に記載された基本合意契約書を締結します。

基本合意契約書には法的拘束力はありませんが、基本的には基本合意書契約書の内容で最終的な契約になると考えます。疑問や気になる点があれば、基本合意契約書の締結前に解決しておきましょう。

売却先候補企業による経営状況やリスクなどの事前調査

基本合意契約書の締結後、デューデリジェンスと呼ばれる売却先候補企業による事前調査が行われます。

デューデリジェンスは、売り手企業の財務、法務、税務状況などを買い手企業が仕業等専門家へ依頼して行う詳細な調査です。デューデリジェンスに当たり、事業の財務、法務、税務に関する様々な書類の提出が求められます。決算書や確定申告書に関しては、過去3期分のデータがあることが望ましいです。

買い手企業は、依頼した仕業等専門家からのデューデリジェンスレポートの結果を受けて、M&Aを進めるかどうかの最終的な判断を行います。場合によっては条件の再交渉が行われ、取引価格や従業員の雇用についての条件を決定する最終段階です。

デューデリジェンスは、M&Aの流れの中でも売却条件の決定に深く関わるプロセスで、複数の書類やデータを仕業等専門家に提出する必要があります。デューデリジェンスの結果によってはM&Aそのものが破談となるケースもあるため、必要書類やデータは不備の無いよう余裕をもって準備をしましょう。

最終契約の締結と経営権の譲渡

デューデリジェンスを経て双方がM&Aの合意に至れば、最終的な契約を締結して経営権の譲渡を行います。M&Aの取引が実行され、M&Aのフローが完了するクロージングと呼ばれる段階です。

最終契約では、M&Aの手法によって株式譲渡契約書、事業譲渡契約書、分割契約書などの契約書を作成します。これらの最終契約書は、M&Aの流れで作成する書類の中で唯一法的拘束力のあるものです。最終契約書は基本合意書を元に作成をしますが、保留としていた事項やデューデリジェンスによって再交渉が行われた内容がある場合はあわせて記載します。

最終契約書の内容に基づき対価の支払いが行われると、売却先企業への経営権の譲渡が完了します。

最終契約書の記載内容でM&Aでの取引内容が確定するため、不備の無い契約書となるよう専門家の視点を踏まえて精査を行って下さい。そして、クロージング後は速やかに社内外へM&Aに関する情報開示を行いましょう。

M&Aでの企業売却にかかる税金の種類

M&Aで企業を売却する際に掛かるコストの中でも、大半を占めるのが税金です。

M&Aの多くは株式譲渡または事業譲渡によって行われますが、それぞれ対象となる税金が異なります。企業の経営状況や規模によって適した手法が変わってくるため、M&Aの専門業者と相談の上で、どの方法でM&Aを進めていくかを検討しましょう。

また、税率は変動する場合があるため、最新の情報は国税庁のホームページなどでご確認下さい。

国税庁HP

株式譲渡のM&Aにかかる税金

株式譲渡のM&Aでは、売り手が個人か法人かによって掛かる税金が変わってきます。

株式譲渡とは買い手企業へ株式を譲渡し、株主や経営者は交代するものの企業自体は存続させることのできる手法です。複雑な手続きが少なく、スムーズにM&Aを行えることが特徴です。

売却する企業の株主が個人の場合、企業の売却によって生じた譲渡所得に対して所得税と住民税を合計した20%の税金が掛かります。ただし、令和19年までは復興特別所得税が加算されるため、税率の合計は20.315%です。

売却する企業の株主が法人の場合、譲渡利益に対して法人税、法人事業税、法人地方税などを含む29~42%の税金が課されます。株主が個人の場合と違い、法人の規模や企業の年間法人所得によって税率が変動します。

株主が個人である場合が多い中小企業では、株式譲渡所得に対して約20%の課税のみとなる株式譲渡の方が、事業譲渡よりも最終的な手取り額で有利となるケースが多いでしょう。

事業譲渡のM&Aにかかる税金

事業譲渡のM&Aで売り手に掛かる税金は、法人税と消費税です。

事業譲渡とは、経営権を残したまま事業の全てまたは一部を他の企業へ譲り渡すM&Aの手法です。企業が抱える負債が大きい場合など、株式譲渡では難しい案件でもM&Aを行いやすいのが特徴です。

法人税は、事業譲渡によって生じた利益に対して約30%の税率が課されます。消費税は、事業の譲渡金額から土地代や有価証券などの消費税対象外の資産を差し引いた額に、消費税率10%を乗じて算出される金額です。消費税は売却先の企業から徴収し、売り手が消費税申告時に納付をします。

事業譲渡では株式譲渡よりも税金の負担が大きいとされますが、譲渡資産額と対価が同等で事業譲渡益が発生しない場合には税金はかかりません。税金対策で負担を軽減できるケースもあるため、節税についてはM&A専門業者に相談すると良いでしょう。

納得のいくM&Aをするには2社以上の支援機関に依頼する

納得のいくM&Aをするには2社以上の支援機関に依頼をしましょう。2社以上の支援機関に依頼すれば、M&Aの流れの中で不安や疑問が生じた時にセカンドオピニオンを受けられるようになるためです。

経済産業省が策定する中小M&Aガイドラインでは、中小企業がM&Aを躊躇する理由の1つに「M&A支援に対する不信感」を挙げており、適切なM&Aのための行動指針としてセカンドオピニオンを推奨しています。提示された金額や条件が妥当かどうか、ほかの専門業者や税理士、弁護士など第三者視点の意見を取り入れることで納得のできる判断を行えます。

セカンドオピニオンを依頼する場合は、メインで依頼している専門業者へ事前の申告が必要です。セカンドオピニオンを許容していない専門業者もあるので、トラブルを防ぐためにも専門業者との契約前にセカンドオピニオンの可否を確認しておくと良いでしょう。

まとめ

M&Aの企業売却の流れには数多くのプロセスがあり、最短でも半年以上の期間が必要です。

M&Aでは法律や金融に関する専門的な知識が求められるため、M&A専門業者へサポートを依頼しましょう。提示された条件やM&A専門業者の対応に疑問が残る場合は、ほかの支援機関へセカンドオピニオンを依頼することも可能です。

M&Aでの企業売却の流れは複雑で長期間に渡るため、最初にM&Aの目標や目的を明確にすることが大切です。企業を売却してから後悔することが無いよう、M&Aの専門業者や支援機関からのサポートを受けながら、納得のいく条件でのM&Aを実現させましょう。