コラム 2023/12/4
事業承継とは?定義や種類などわかりやすく解説
経営者のなかには、さまざまな事情により会社もしくは事業を後継者などに引き継ぐことを検討している人もいますよね。その際、「そもそも事業承継とは?」「事業承継の種類にはどのようなものがあるのか?」に関して知りたい人もいるでしょう。
当記事では、「事業承継の定義や種類」などに関してわかりやすく解説します。事業承継の種類やそれぞれの特徴なども説明しているため、会社などの引き継ぎを検討している人はぜひ、参考にしてください。
CONTENTS
事業承継とは後継者に経営を引き継ぐこと
事業承継(じぎょうしょうけい)とは後継者に経営を引き継ぐことです。事業承継を行う理由として「経営者の高齢化」「経営難」などが見られますが、後継者となる人は、親族だけでなく、経営陣や現場の第一人者など親族外の従業員の場合もあります。
中小企業においては、経営者の手腕や人柄などが企業の魅力となっているケースが多いため「誰を後継者にするか」は特に重要な課題になります。それ以外にも、事業承継を行う際にはいくつかの経営課題を検討する必要があります。
【事業承継における経営課題の例】
- 経営承継(誰を社長にするか)
- 所有承継(自社株を誰に引き継ぐか)
- 後継者教育(後継者教育をどう行うか)
たとえば、事業承継を行う際には、まずは誰を経営者にするか「経営承継」を決定する必要があります。会社の所有者である株主と経営者を分離する場合には、自社株を誰に引き継ぐか「所有承継」も決定します。
また、次期経営者として必要な実務能力や心構えを習得してもらうための後継者教育をどのように行うか、検討が必要となる場合もあるでしょう。中小企業庁の「中小企業白書2019」によると、後継者に対して「資格取得の推奨」「社内教育」を行う企業が多く見られました。
ただし、後継者の資質として求めるものは経営者によって異なります。現経営者が後継者に対して求める資質に合わせた教育方法を適切に取り入れるようにしましょう。
事業承継と事業継承の違い
事業承継と事業継承の違いは明確に定義されていません。日本語辞書(Oxford Languages提供)では、「承継」と「継承」はいずれも「うけつぐこと」として定義しています。
【承継と継承の言葉の意味】
辞書の意味 | 使い分けの例 | |
承継 | 前の代からのものを受け継ぐこと。継承。 | ・経営理念やビジョンなど抽象度の高いものを引き継ぐ意味として使われる場合がある
・権利や義務の引き継ぎを指す法律用語として使用される場合もある |
継承 | 前代の人の身分・仕事・財産などを受け継ぐこと。承継。 | ・経営権や財産など前任者が得た経済的価値など具体性のあるものを引き継ぐ意味として使われる場合がある |
「承継」と「継承」は、辞書に掲載されている言葉の意味は同じですが、インターネット上には、事業継承と事業承継を別のものとして扱う解説がみられます。「事業承継」は「経営理念」「ビジョン」など抽象度の高いもの、「事業継承」は「経営権」「財産」など具体性のあるものを引き継ぐ言葉とする見解です。
なお、法律上や税制上では「事業承継」が用いられるケースが多く見られます。「承継」と「継承」の違いは明確な違いはないため、どちらの言葉を使用しても問題ないといえるでしょう。
事業承継で引き継ぎの対象となるもの
事業承継で引き継ぎの対象となるものは3つの経営資源です。事業承継後も継続的に事業を発展させていくためには、経営者が変わるだけでなく「人」「有形資産」「無形資産」を承継することが重要となります。
【事業承継での引き継ぎ対象】
経営資源 | 承継する内容 |
人 |
|
有形資産 |
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無形資産 |
|
事業承継で引き継ぐ経営資源のひとつに「経営権」が挙げられます。また、事業承継では、企業が有する株式や設備および不動産などの「有形資産」や、取引先との関係性やビジネスのノウハウなどを含めた「無形資産」2種類の資産を引き継ぎます。
なお、有形資産は、タイミングや承継方法で税金が変わるケースがあります。企業の状況によって最善の方法を採るためにも、税理士などの専門家に相談することを検討してください。
事業承継の種類
事業承継の種類は「親族内承継」「企業内承継(親族外承継)」「第三者承継(M&A)」です。
【事業承継の種類】
事業承継の種類 | メリット | デメリット |
親族内承継 |
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企業内承継
(親族外承継) |
|
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第三者承継
(M&A) |
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「親族内承継」「企業内承継(親族外承継)」はいずれも後継者が見つからない場合、選択できない方法です。「第三者承継M&A)」は、後継者がいない場合にも選択できる方法であり、廃業と比較した場合に経済面で圧倒的な利益をもたらす方法のため、中小企業に対して推奨されています。
企業がおかれている状況によって選択できる事業承継の方法が限られる場合もあります。それぞれの方法にメリットとデメリットがあるため、確認してから事業承継の準備を行うようにしてください。
親族内承継
親族内承継は、経営者の子供や孫など親族に承継する方法です。親族内承継は、親族に後継者として適した人材がいない場合や、そもそも後継者がいない場合に選択できないため、廃業を余儀なくされる場合もあります。
親族内承継のメリットは、従業員をはじめとする内外の関係者から理解を得やすく、承継を早期に決定できる点です。その一方で、親族間で経営権をめぐるトラブルが起こる場合もあるため、後継者を誰にするか、後継者以外の親族に対する財産分与に関する方針など親族会議で決めておく必要があります。
なお、事業譲渡を行う際には、株主総会において承認をとることが会社法467条にて定められています。親族内承継を行う場合には、株主総会での重要事項決定に必要な3分の2以上の議決権か、最低でも普通決議に必要な過半数の議決権割合に相当する株式を承継するようにしましょう。
企業内承継(親族外承継)
企業内承継(親族外承継)は、企業内の役員や従業員など親族以外に承継する方法です。企業内承継は、経営者が自社株を保有したまま社長の地位を引き継ぐ方法や、将来的に親族内承継を行うことを前提に、一時的に従業員に承継するケースもあります。
企業内承継のメリットは、企業に詳しい人にスムーズに承継でき、経営者としてふさわしい人材を見極めやすく、経営方針等の一貫性を保ちながら引き継ぐことが可能な点です。しかし、企業内に適任者がいない場合や、後継者に有償譲渡での資本力がない場合は廃業を選択することになる可能性があります。
なお、企業内承継は、親重要親族株主の了解を得ることが重要となります。個人資産を担保に事業を行っている場合は、企業内承継の後継者や後継者の家族に対して、後継者会社経営のリスクに関する説明を行い、理解を得るようにしましょう。
第三者承継(M&A)
第三者承継(M&A)は、第三者企業に会社を売却して承継する方法です。第三者承継(M&A)は、親族や自社役員および社員などに後継者がいない場合にも廃業を回避できるため、中小企業の相談先となるフィナンシャル・アドバイザーや仲介業者を登録する「M&A支援機関に係る登録制度」を設けるなど、中小企業庁によって推奨されている方法です。
第三者承継のメリットは、後継者がいない場合にも従業員の雇用や取引先との関係性を守りながら企業を存続させることができる点です。また、売り手側と買い手側双方の資本や人材などを活用でき、協業による発展が期待できる場合があります。
しかし、第三者承継を検討していても、従業員の雇用や取引価格などを満たす買い手企業を見つけることが困難な場合があります。さらに会社の売却が成立した場合、経営方針は買い手企業にゆだねるケースが多いため、関係者の理解を得る必要があり、企業文化やシステムの統合にも時間がかかるでしょう。
なお、事業承継型のM&Aは中小企業庁の資料(PDF)によると増加傾向にあります。M&Aの課題として売り手の意思決定が挙げられますが、解決策として仲介業者による意識変革が成されるような公的PR、啓蒙活動の展開が求められています。
事業承継型MBO
事業承継型MBOは、社内の役員や経営陣に株式を譲渡して経営を引き継ぐ方法です。MBOは「Management Buy Out」の略称で、金融機関やファンドから株式を買い取るための資金調達のためにSPC(特別目的会社)を設立して株式譲渡を行うのが一般的です。
事業承継型MBOのメリットは、社内の人間が会社を引きつぐため、企業理念や経営方針を維持できる点です。親族に後継者がいない場合でも、企業理念や経営方針を維持しながら事業を継続できるため、従業員や取引先などの理解を得やすいといえるでしょう。
その一方で、MBOを行う際の資金調達は、会社の事業計画をはじめ経営状況に左右される場合があります。MBOにおいて調達した資金は、会社が返済義務を負うため、金融機関やファンドの審査によって融資が受けられない会社もあります。
なお、事業承継型MBOは、株式譲渡に際して金融機関やファンドから多額の資金を借り入れる必要が生じます。事業承継型MBOを行うメリットが解決すべき課題点より大きい場合にのみ、実行するようにしましょう。
事業承継の進め方
事業承継の進め方には、おもに5ステップの工程を要します。事業承継の工程はそれぞれ時間や手間がかかるため、早期の準備や着手を行えるように手順を把握しておくようにしましょう。
【事業承継の手順】
- 企業の現状と課題を明確にする
- 後継者を選定する
- 解決すべき課題の解決や改善を行う
- 事業承継計画を策定する
- 事業承継を実行する
まずは、自社の経営状況や事業承継における課題を明確にします。「自社株の評価」「収益性の高い自社商品やサービス」「競争優位性や業界におけるポジショニング」などを分析し、経営状況を把握します。さらに「後継者候補がいるか」「相続財産」「相続税額のシミュレーション」、承継方法によっては「親族への対応」など事業承継における課題を明確化します。
次に、後継者や引継ぎ先の企業を検討および選定する必要があります。親族や社内に候補者がいる場合は、経営者としての資質があるか判断し、候補者がいない場合は、外部の人材やM&Aの可能性を検討します。
事業承継計画は、後継者や引継ぎ先に対して、どのように事業承継を進めるか、「会社の状況」「承継内容」などを明記するものです。事業承継は、株式や資産の名義変更や、後継者教育の実施など事業計画書の内容に従って行い、有形および無形資産の引き継ぎや、後継者への経営権譲渡をもって完了します。
なお、第三者承継を行う場合には、契約締結後の半年から1年間程度の「経営統合作業」が重要とされています。経営統合作業は、「PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)」と呼ばれ、経営体制や制度面での統合、業務システム、取引先および業務評価制度の見直しなどを行います。
事業承継の手順は、種類によっても異なりますが、事業承継の具体的な手続きに関しては、中小企業庁が公表している「事業承継ガイドライン」や「事業承継マニュアル」を参考にする方法もあります。自社が検討している事業承継の種類に応じた手続きを確認したい人は確認してください。
事業承継を検討する際に知っておきたいこと
事業承継を検討する場合、知っておきたいことが複数あります。事業承継の準備を始める前に確認するようにしましょう。
【事業承継を検討する際に知っておきたいこと】
- 経営理念などを次世代に受け継ぐようにする
- 時間に余裕をもって準備する
- 関係者の理解を得る
経営理念などを次世代に引き継ぐようにする
事業承継では、経営理念などを次世代に引き継ぐようにします。事業承継を成功させるためには、会社の経営権や資産だけでなく、経営理念や経営者の想いなど会社の文化も引き継ぐことが重要になるためです。
特に中小企業の場合、経営理念や経営者の想いに共感して働く従業員や、取引を行っている取引先が少なくありません。また、会社は経営者だけでなく、複数の人によって成り立つ組織なので、経営理念が意思決定や行動のよりどころとなります。
経営理念などを次世代に引き継ぐためには自社の知的財産に関して認識および評価を行い、今後どのように活用いくかをまとめた「知的資産経営報告書(事業価値を高める経営レポート)」を作成する方法もあります。知的資産経営報告書の作成方法がわからない場合には、作成支援を受けたい人に向けた支援窓口をまとめた「知的資産経営ポータル」を参考にする方法もあります。
なお、中小機構では「事業価値を高める経営レポート 作成マニュアル改訂版」を公開しています。経営理念の引き継ぎを行う際に参考にしてください。
時間に余裕をもって準備する
事業承継を行う場合、時間に余裕をもって準備するようにしましょう。事業承継は後継者の選定をはじめ、育成や教育を行ったり、業務の引継ぎなどが必要となったりするため、時間がかかるからです。
まずは事業承継の流れを把握し、引退の5~10年ほど前には準備を始められるようにしましょう。特に後継者の育成には時間がかかるため、70歳前後に引退する場合には遅くとも60歳には承継を開始するのが望ましいといえます。
なお、事業承継はさまざまな手続きが必要となり、時間がかかるため、自社のみで進めるのは困難なケースが多く見られます。事業承継を行うことを決断した場合には、国が設置する公的相談窓口をはじめ、不明点などを確認できる専門家や機関などの相談先を探しておくようにしましょう。
関係者の理解を得る
事業承継を行う場合は、後継者をはじめ、従業員や取引先など関係者の理解を得ることも重要です。
関係者の理解を得るために、まずは経営者自身が「既存の経営者保証の処理」「株式取得のための資金調達」「株式取得により生じ得る税務上の問題」などに関して理解し、解決策となる手段や制度を把握しておく必要があります。それらを理解したうえで、「事業承継を行う理由」「承継者を選出した理由」などを関係者に説明しましょう。
なお、関係者の理解を得るための説明を行う場合、専門家に説明してもらうことでより理解を得やすくなる場合もあります。法律や税金に関する知識を有する専門家に相談することを検討してください。
事業承継で活用できる制度
事業承継を行う際にはさまざまな費用がかかりますが、事業承継で活用できる税制優遇や補助金制度などが複数あります。事業承継を検討しているものの、相続や贈与による税金の支払いが不安な場合や、事業承継後に事業再編や事業統合など新たな取り組みを行うことを計画したい人が活用できる制度です。
補助金制度に関しては、企業規模や状況に応じて活用できる制度は異なりますが、税制の優遇措置は中小企業に適用されるため、事業承継を検討している中小企業は確認してください。
【事業承継で活用できる制度】
制度 | 概要 |
税制 | <事業承継税制>
|
補助金制度 | <事業承継・引継ぎ補助金>
|
事業承継税制
中小企業が事業承継を行う場合「事業承継税制」が適用され、相続税や贈与税の負担を軽減できる場合があります。「事業承継税制」は、株式を相続や贈与により取得した場合、一定の要件を満たせば納税が猶予される制度です。
適用を受けるためには以下の手続きが必要となり、申請に必要な個々の手続きにおいてもそれぞれ用件があります。
【事業承継税制に必要な手続きの例】
申請に必要な手続き | 手続きの概要 |
特例承認計画 | 提出先:都道府県知事
<概要>
|
円滑化法の認定 | 提出先:都道府県知事
<概要>
|
贈与税の申告書 | 提出先:税務署
<概要>
|
「事業承継特例承認計画」は事業承継に向けた準備の開始段階に提出するものです。「中小企業」「先代経営者が代表権を持っている/持っていた」の2点が提出の要件です。また、事業承継税制を受ける場合、「円滑化法の認定」を受けることが法律で定められています。
このように、事業承継税制の適用を受ける際にはさまざまな申請が必要となります。特例の認定申請に必要な書類に関しては、中小企業庁のホームページでも確認できますが、手続きを行う際には、税理士などの専門家に相談することを検討してみましょう。
参照:
法人版事業承継税制(特例措置)の前提となる認定に関する申請手続関係書類|中小企業庁
補助金制度
事業承継を行う際の資金が難点となる場合には、補助金制度を活用する方法もあります。事業承継に活用できる「事業承継・引継ぎ補助金」は事業承継を契機として新しい取り組みなどを行う中小企業者等や、事業再編、事業統合に伴う経営資源の引き継ぎを行う中小企業者等を支援する制度です。
【事業承継・引継ぎ補助金】
- 経営革新事業
「創業支援型」「経営者交代型」「M&A型」
- 専門家活用事業
「買い手支援型」「売り手支援型」
- 廃業・再チャレンジ事業
事業承継・引継ぎ補助金は、「経営革新事業」「専門家活用事業」「廃業・再チャレンジ事業」の3事業を対象としており、事業承継の種類を問わず活用できます。
「経営革新事業」は3種類、「専門家活用」は2種類に分類されており、それぞれ補助の対象となる取組内容や経費の種類に応じた補助を受けられます。また、「廃業・再チャレンジ事業」は、経営革新事業・専門家活用事業との併用申請や、M&Aへの取り組み後に廃業した際の申請が可能です。
なお、これらの制度は要件や申請時期などが年度により異なる場合があります。補助金制度の活用を検討する場合は各補助金のホームページを参考にしてください。
まとめ
事業承継(じぎょうしょうけい)とは後継者に会社の経営を引き継ぐことです。事業承継では「人(経営権)」「有形資産(株式や資産など)」「無形資産(取引先と関係性や知的財産など)」3つの経営資源を引き継ぎます。
事業承継は「親族内承継」「企業内承継(親族外承継)」「第三者承継M&A)」の3種類に分類されます。状況によって選択できる事業承継の方法が限られる場合もありますが、それぞれの方法にメリットとデメリットがあります。
また、事業承継の手順において必要となる工程4つです。それぞれの工程には時間と手間がかかり関係者の理解を得る必要があるため、事業承継は時間に余裕をもって準備するようにしましょう。
なお、事業承継に伴う相続税や贈与税の負担を軽減できる「事業承継税制」や事業承継を行う際の資金を補助する「事業承継・引継ぎ補助金」などの制度があります。事業承継において資金面での不安がある人は活用を検討してください。
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