コラム 2023/11/1

事業譲渡で生じるメリット・デメリットとは?売り手側と買い手側の面から解説

事業譲渡とは、会社の事業を他社に譲り渡すことです。事業譲渡によって生じるメリットやデメリットもあるため、手続きを行う前にしっかりと理解しておくことが大切です。

当記事では、事業譲渡によって生じるメリットとデメリットに関して、売り手側と買い手側に分けて紹介します。手続き方法や注意点についても解説するので、ぜひ参考にしてください。

CONTENTS[非表示]

事業譲渡の売り手側のメリットとデメリット

事業譲渡を行うことによって、売り手側にはさまざまなメリットとデメリットがあります。
事業を譲渡するメリットはデメリットを上回りますが、会社の状況によって得られるメリットは異なる場合もあります。

【事業譲渡による売り手企業にとってのメリット・デメリット】

メリット デメリット
  1. 経営を継続できる
  2. 譲渡によって利益を得られる
  3. 他の事業に資産を投資できる
  4. 従業員や資産を残すことができる
  5. 必要な事業に集中し清算を見込める
  6. 法人格での継続が可能となる
  7. 後継者問題の解決が見込める
  1. 譲渡した事業と同等の事業を行う際には制限がある
  2. 利益に対して法人税が課税される
  3. 複雑な手続きや時間が必要となる
  4. 従業員と取引先に対しての対応が必要
  5. 株主総会の特別決議が必須となる
  6. 負債が残る可能性もある

売り手側のメリット

事業譲渡は、売り手側の企業にとって複数のメリットがあります。

【売り手にとっての事業譲渡のメリット例】

  1. 経営を継続できる
  2. 譲渡による利益を得られる
  3. 他の事業に資産を投資できる
  4. 従業員や資産を残すことができる
  5. 必要な事業に集中し清算を見込める
  6. 後継者問題の解決が見込める

(1) 売りたい事業を譲渡して経営を継続できる

経営難に陥っている企業は、事業譲渡によって経営を継続できる可能性が高まります。事業譲渡では、譲渡側の経営権は維持できるからです。

さらに、事業譲渡は売り手側が自由に譲渡したい事業を選択できます。事業の一部のみ譲渡するか、全ての事業を譲渡するのかを選択できることもメリットのひとつといえるでしょう。

事業譲渡は、経営するための資金に余裕を持たせたい企業や、後継者不足などの問題を抱えている企業にとって効果的な手段といえるでしょう。

(2) 譲渡によって利益を得られる

事業譲渡を行うことによって、現在の事業価値に加え、今後その事業の数年間の営業価値を加味した対価を得られます。そのため、買い手側が譲渡事業に将来性を感じていれば、現在の事業価値を上回る金額の利益を得られます。

(3) 譲渡利益を、別の事業の資産として投資できる

譲渡利益を利用して、継続事業の強化や拡大、新規事業の立ち上げに投資できることも、売り手側にとっては大きなメリットのひとつです。M&Aの場合、売り手企業は、事業を縮小させて経営を継続するケースが多く見られますが、事業拡大のために事業譲渡を行うという考え方も存在します。

(4) 従業員や資産を残すことができる

事業の全てを丸ごと譲渡するとなると、新しく事業を始める場合はゼロからスタートしなければなりません。

しかし、事業譲渡は一部の事業を指定して譲渡するため、買い手側が個別に引き継ぐ形となります。そのため、事業を譲渡しても従業員を残すことや、譲渡対象外の事業にかかる資金を残すことができます。

事業譲渡後に、新しい事業への投資を考えている場合には、従業員や資産が残っている状態が会社にとってもベストであり、新事業に力を入れることができます。

(5) 必要な事業に集中し、清算を見込むことができる

経営を行う上で、採算性が見込めない事業よりも、採算性が見込める事業、かつ会社の強みを発揮できる事業に集中することも戦略のひとつです。

事業譲渡で採算が見込めない事業を売却し、その際に得た利益を採算が見込める事業への投資や、譲渡を行った事業にかけていた時間や従業員を、他の事業に費やすことができます。また、会社の更なる発展や抱えている資金問題の清算が見込める可能性もあります。

(6) 後継者問題の解決が見込める

後継者を見つけたいが、親族や従業員内に任せたい人材が居ない場合、事業譲渡を行うことで、抱えていた後継者問題の解決が見込める場合があります。

事業譲渡は、廃業したり従業員が職を失ったりすることなく、商品やサービスの継承と売却利益の発生が見込めるため、後継者問題を抱える企業にとっては、解決方法のひとつとなります。

売り手側のデメリット

事業譲渡における売り手側にはデメリットも存在します。これらのデメリットは会社の状況によって異なるものもあるため、事業譲渡を検討する際には自社の状況と照らし合わせながら検討してみてください。

【売り手にとっての事業譲渡のデメリット例】

  1. 譲渡した事業と同等の事業を行う際には制限がある
  2. 利益に対して法人税が課税される
  3. 複雑な手続きや時間が必要となる
  4. 従業員と取引先に対しての対応が必要
  5. 株主総会の特別決議が必須となる
  6. 負債が残る可能性もある

(1) 譲渡した事業と同等の事業を行う際には制限がある

売り手側には、事業譲渡後に「競業避止義務」が発生することが会社法で定められています。「競業避止義務」は、同一市区町村かつ隣接する区町村で原則20年間、譲渡を行った事業と同じビジネスをしてはいけないという義務で、特約として買い手側が期間を30年まで伸ばすことも可能です。

この義務を違反した場合には、買い手側が競業行為の差止請求、かつ債務不履行に基づいた損害賠償請求を行うことができます。ただし近年では、この義務に関する批判も多く、経済状況を踏まえて事業譲渡の契約の際に、競業避止義務を売り手側が負担しないよう、条項に記載するケースもみられます。

事業譲渡を行う際には、契約内容をしっかりと確認し、買い手側との話し合いを行うことが重要となります。

(2)譲渡時の利益に対して法人税が課税される

譲渡時の売却価格から、会計帳簿に記録された資産や負債の評価額である帳簿価格を差し引いた譲渡益に対して、税率30〜40%前後の法人税が課税されます。事業譲渡の規模が大きければ大きいほど税負担が大きくなるため、売り手側にはデメリットとなります。

しかし、譲渡益の単体に法人税が課税される訳ではなく、その年の会社の損益を通算した金額に課税されるため、負担が軽減される可能性もあります。

なお、譲渡した資産に課税対象が含まれている場合は、通常の資産譲渡同様、消費税も発生します。

(3) 事業譲渡完了までに、複雑な手続きや時間が必要

譲渡する事業を選択できるため、引き継ぎを行う権利や義務については、個別に手続きをしなければならず、その分の手間や時間が負担となることがあります。

負債や資産、人材や顧客リストや契約など、引き継ぎを行うものなどを明らかにする必要があるため、譲渡の対象となる規模が大きければ、手続きが複雑かつ時間もかかります。

(4) 従業員と取引先に対しての対応が必要

事業譲渡に際しては、従業員と取引先に対しての対応が必要になります。

事業の従業員が譲渡対象となる場合は、従業員個々に対する説明と承認が必要です。事業譲渡における買い手側の目的が「人材やノウハウの獲得」である場合、買い手側の目的であった人材が、買い手側との契約を拒否すると事業譲渡自体がなくなってしまう可能性があるため、従業員本人と買い手側で十分な協議が必要です。

また、取引先に対しても説明を行い、承認を得る必要があります。特に、準備段階の案件を抱えているのであれば、譲渡時の対価は誰が受け取り、対価がどのくらいになるものなのか、細かく決めておかなければいけません。

場合によっては、売却価格に不満を抱く取引先もいるかもしれず、合理的な根拠に基づいた価格を設定する必要があります。

(5) 株主総会の特別決議が必須となる

事業譲渡の手続きのひとつとして、株主総会での特別決議が必要です。小規模の企業ではデメリットとして捉えられないことが多いですが、株主が多い大企業であればあるほど、手間とコストがかかるため、デメリットとなります。

(6) 負債が残る可能性もある

買い手には、売り手が抱える債務も引き継ぐ義務はありません。そのため、買い手が債務を引き離す選択をした場合に、事業を譲渡することはできても、債務が残ることになります。また、債務を引き継ぐ場合には、債務引き受け契約を個別に締結する必要があります。

債務を抱えている状態で事業譲渡を行う場合には、どこまでが譲渡対象となるのかを明確にしましょう。

事業譲渡を行う際の注意点

事業譲渡を行う場合、従業員待遇、債務責任、税金、資産や負債についての注意点があります。注意点も念頭に置き、事業譲渡を進めるようにしましょう。

【事業譲渡を行う際の注意点】

  • 従業員待遇は買い手側の契約に従う
  • 税務や税金のリスクも踏まえて取引を進める
  • 権利や内容について明確にしておく

従業員待遇は買い手側の契約に従う

従業員が譲渡対象となっている場合は、買い手側と個別に契約を結びます。事業が買い手側で継続して行われ、従業員の業務内容に変化がなければ、一般的には転籍前と同様の雇用契約を締結します。

就業規則や給与規則は、買い手側との契約に従うため、従業員にとって条件が良くなる場合もあれば、悪くなる場合もあります。契約を締結する前に契約内容をしっかり確認しましょう。

税務や税金のリスクも踏まえて取引を進める

事業譲渡を行う際には税金額の負担が増加するリスクがあることを念頭に置き、取引を進めましょう。事業譲渡の対象となる物によっては、不動産取得税、消費税、登録免許税などの税金がプラスで発生し、買い手側の税金額が増加する可能性があるからです。

買い手側だけでなく、売り手側も、譲渡益に対して法人税がかかるため、両者共に税務や税金のリスクも踏まえて取引を進めるようにしましょう。

権利や内容について明確にしておく

事業譲渡において権利や内容について明確にしておくことは重要です。個別に引き継ぐことになる資産や負債は、法的トラブルの原因となる場合があるためです。

特に個別の資産に関しては、抵当権、担保など明確にしなければいけない点も多く、手間となりますが、後々のトラブルを避けるためにも、しっかり確認する必要があります。

事業譲渡に向く状況と向かない状況

事業譲渡のメリットとデメリットを紹介しましたが、企業が置かれている状況によって、事業譲渡が向いているのか、向いていないのかが変わっていきます。

事業譲渡に向く状況 事業譲渡に向かない状況
  • 法人格や経営権を残したい場合
  • 経営環境改善や後継者問題解決をしたい
  • 新事業をスタートさせたい
  • 会社として経営を継続したい場合
  • 企業規模が大きい場合

売り手が法人格や経営権を残しながら事業の継続を希望する場合は、事業譲渡が向いている状況と言えます。株式譲渡では、経営権も買い手側に譲渡する形になるため、経営継続が困難になることが多くあります。

また、メイン事業に力を入れ、弱みとなる事業を売却したい場合も事業譲渡に向いているといえます。事業譲渡を行うことによって事業の整理ができ、経営環境の改善にも繋がります。

買い手は、株式譲渡と異なり買収する事業を選択できるため、薄外債務のリスクを最小限に抑えながら、買収した事業の進め方によっては大きな利益を生むことも可能です。

売り手側の企業規模が小さければ小さいほど事業譲渡を行うメリットは多くなり、売り手と買い手の双方がそれぞれ新事業をスタートさせたい場合には、事業譲渡を活用することもひとつの方法です。

事業譲渡の買い手側のメリットとデメリット

買い手側にとっても事業譲渡を行うメリットはデメリットを上回ります。

ただし、これらのメリットとデメリットは将来的な事業計画がある場合など会社が置かれている状況や企業規模によっても異なる場合があるため、自社の状況と照らし合わせながら回収を検討してみてください。

【事業譲渡による買い手側のメリットとデメリット】

メリット デメリット
  1. 必要な従業員・取引先・技術を取得できる
  2. 負債の引き継ぎが不要
  3. 事業を強化できる
  4. 新規事業を低コストで始められる
  1. 買収額によっては資金調達が必要
  2. 許認可の引き継ぎはできない
  3. 従業員や取引先への対応が必要
  4. 企業の規模によってデメリットが多くなる

買い手側のメリット

事業譲渡を行うメリットは買い手側にとっても複数あります。

【買い手にとっての事業譲渡のメリット例】

  1. 必要な従業員・取引先・技術を取得できる
  2. 負債の引き継ぎが不要
  3. 事業を強化できる
  4. 新規事業を低コストで始められる

(1) 必要な従業員・取引先・技術を取得できる

事業譲渡は「優秀な人材の獲得」「取引先との関係性の構築」「技術や知識の習得」などの目的を達成する手段にもなります。事業譲渡によって譲受元の人材や取引先、ノウハウなどを取得できる可能性があるからです。

従業員や取引先を譲受する場合には、個別に契約を締結する必要がありますが、従業員・取引先・技術などの確保は、ゼロからスタートするよりも失敗のリスクを避けられ、コスト削減や時間の短縮にも繋がります。

(2) 負債の引き継ぎが不要

事業譲渡に債務の承継義務はありません。譲渡の対象は選択できるため、会社にとって負債となる範囲の債務は引き継ぐ必要がないからです。

ただし、売り手側の条件や売却内容によっては、全てが譲渡の対象にならない場合もあり、債務を引き継ぐ可能性もあります。

(3) 事業を強化できる

事業譲渡によって会社の中で、弱い事業を強化できる点もメリットのひとつです。

たとえば、通販サイトを行う企業が、競合になかなか勝てず、事業が低迷している場合は、プレゼントや贈り物に特化している事業を買収することで、特別な日の贈り物に対応したサービスの向上が見込めます。

売り手企業が持つ強みを合わせ、協力することによって、買い手側にとっての事業強化に繋げられるでしょう。

(4) 新規事業を最低限のコストで始められる

事業譲渡によって新規事業を最低限のコストで始めることも可能になります。

新しい事業をゼロからスタートさせ、事業が軌道に乗るまでには多くの時間とコストが必要であり、失敗する可能性もあります。事業譲渡は、すでに完成している事業、軌道に乗っている事業を買収して進めていくため、時間やコスト、失敗のリスクを最小限に抑えられます。

買い手側のデメリット

買い手側のデメリットは譲受する事業の状況や規模によって異なります。いずれのデメリットも、事前に調査を行なってから準備を進めることで事業譲渡を成功に導くことができるでしょう。

【事業譲渡を行う買い手側のデメリット】

  1. 買収額によっては資金調達が必要
  2. 許認可の引き継ぎはできない
  3. 従業員や取引先への対応が必要

(1) 買収額によっては資金調達が必要になる

回収額によっては、事業を買収するための資金が必要となります。買収額が足らなければ、追加の資金調達を考えなければいけません。

譲受した事業で利益が出れば、資金調達を行っても問題ありませんが、資金調達の多くは借入となるため、買い手の負担が増加する場合があります。

(2) 許認可の引き継ぎはできない

許認可の取得は、申請を行った法人に対してのみ可能です。そのため、事業譲渡で事業の許認可を引き継ぐことはできず、買収する事業に許認可が必要な場合は許認可申請を行う必要があります。

買収を行い、事業譲渡が完了したタイミングで事業の許認可を取得していなければ、事業を開始できません。また、事業の種類にもよりますが、許認可の取得は1〜4ヶ月程度の期間が必要となり、許認可取得までの期間も考えて準備を行う必要があります。

(3) 従業員や取引先への対応が必要

譲渡対象に従業員や取引先が含まれている場合には、個別に契約を結び直す必要があります。従業員や取引先への相談と承認が必要になるため、相談によっては必要条件が変わる可能性も大いにあります。

さらに事業譲渡に関わらず、株式譲渡の場合も取引先や譲渡先の従業員との関係性を維持することが困難となる場合があります。

取引先には事業譲渡に関する承諾を得るのが一般的ですが、仕掛中の案件がある場合などはその契約や代金に関して定める必要が生じる可能性や、譲受先の従業員から契約を拒否されたり、不安や不満を持たれたりする可能性があるからです。

譲受する従業員数の数は多ければ多いほど負担となりますが、あらかじめ準備を行ない進めていくことが大切です。従業員が気持ちよく仕事を行えるよう、面談等を行ない、従業員とコミュニーケーションを取るなど関係性を築いていくことが事業を譲受する際の成功の鍵となります。

まとめ

事業譲渡は、譲渡する物・譲受する物を自由に選択でき、売り手と買い手の双方が新事業のスタートや事業の整理など次のステップに向けて取引を進められます。事業譲渡を行う企業は、比較的中小企業が多いことが特徴です。

しかし、税金面で両者共に負担となることや、手続きには期間と手間がかかることなど、デメリット面もあります。また、資産や負債がトラブルの原因となる可能性もあるため、事業譲渡契約の前に、専門家を通して内容を確認するようにしましょう。