ノウハウ 2024/5/7

経営権とは?譲渡や移転、議決権・支配権との違いを解説

事業経営を行う者が行使する権利は「経営権」と呼ばれますが、具体的にどういうものかをご存知でしょうか。

事業の再構築には経営権を譲渡するのも選択肢として考えられますが、くれぐれも経営権が第三者に移る条件を知らないまま、意図せずに経営権を奪われる事態にならないよう、経営権について学んでおく必要があるでしょう。

本記事では、経営権の意味、経営権の譲渡・移転について、類語の「議決権」や「支配権」との違いをご紹介します。

経営権とは?

経営権とは、経営者が保有する「会社の経営判断を行うための権利」のことです。

経営権を保有する者は「経営者」と呼ばれ、労働者や労働組合など労働者側との合意がなくとも、会社の利益を最大化するための経営判断と意思決定ができます。

経営権は3つに細分化して「経営三権」と定義することもあります。

【経営権の内訳】

経営三権 概要
業務命令権 会社の経営方針・事業内容を決定する権利
人事権 会社の役員や取締役などの任命や、従業員の異動命令など、組織体制を決定する権利
施設管理権 会社が保有する施設や設備など事業財産の活用・管理について決定する権利

なお、日本国内の会社の設立、組織、運営および管理については「会社法」で定められていますが、「経営権」については特に定められておらず、法令で定義されるものではありません。
参照:会社法|e-Gov

会社によっては、定款などで経営権を独自に定義しているケース、経営者が個人ではなく、株主総会や取締役会などの機関を通じて行使できるように経営権を定義しているケースもあります。

経営権の譲渡・移転

経営権は、経営者から第三者に渡すことができます。

主に事業承継や合併・買収(M&A)などの文脈で、有償または無償で、第三者に経営権を譲り渡すことを指して「経営権の譲渡」または「経営権の移転」と表現します。

株式会社の経営権の譲渡は、有償または無償で、株主が保有する株式を別の会社または個人に譲り渡す「株式譲渡」で行われるのが一般的です。
参照:会社法 第三節 株式の譲渡等 第一款 株式の譲渡(第百二十七条〜第百三十五条)|e-Gov

なお、株式譲渡について詳しく知りたい方は「株式譲渡とは?意味と流れと制限と類語との違いを解説」をご覧ください。

「経営権の譲渡」または「経営権の移転」を行なった場合、その株式譲渡契約が有効になった日から経営者は経営権を失い、以後、会社の経営を思うようにできません。

経営権と議決権の違い

経営者が行使する「経営権」と、株主が行使する「議決権」は、どちらも会社の経営に影響を与える権利で混同されやすいですが、権利を持つ者が違います。

経営権が会社の経営の意思決定を行うための「経営者の権利」なのに対し、議決権は株主総会で議題に賛成・反対の意思表示ができる「株主の権利」です。

議決権の割合が多いほど株主総会での影響力が強いため、「経営者が影響力を行使できる割合の株を保有し、株主総会の議決を左右できる状態」を指して「経営権を持つ状態」とみなす傾向があります。

ただし、株主総会で株主が議決権を行使し、会社の方向性を決める意思決定に影響を与えることはあっても、経営者でない限り、その株主が会社経営の細かな意思決定を行うことはありません。

【経営権と議決権の比較】

経営権 比較項目 議決権
会社の経営の意思決定を行う「経営者の権利」 意味 株主総会で、議題に賛成・反対の意思表示できる「株主の権利」
株主総会や取締役会など 行使する機会 株主総会
経営者が株を保有して議決権の割合が多いと、意思決定の際に株主総会の影響を受けにくい。 特徴 議決権の割合が多い株主であれば、株主総会で会社の意思決定に影響を与えられる。

なお、議決権の保有する割合によって、株主が行使できる権利は変化します。

【議決権保有割合ごとに株主が行使できる権利】

議決権保有割合 株主が行使できること
1株以上
  • 配当の受取
  • 株主総会の議決
1%以上
  • 取締役に対して特定の議題の通知を請求
3%以上
  • 取締役に対して株主総会の招集を請求
  • 監査請求
33.4%以上(議決権の3分の1を保有)
  • 定款の変更・事業譲渡・合併・会社の解散・減資など、株主総会の特別決議について単独での「否決」
  • 自己株式を企業に買い取らせる請求
50.0%以上(議決権の2分の1を保有)
  • 取締役・監査役の選任と解任、剰余金の配当、自己株式の取得など、普通決議についての単独での「可決」
66.7%以上(議決権の3分の2を保有)
  • 普通決議・特別決議について単独での「可決」
90.0%以上
  • 大株主が強制的に株式買い上げ、他の株主を排除する「スクイーズアウト」の実行

経営権と支配権の違い

経営権と支配権は混同されやすいですが、一番の違いは「経営者が持つ権利」と「株主が持つ権利」という点です。

【経営権と支配権の比較】

経営権 比較項目 支配権
会社の経営の意思決定を行う「経営者の権利」 意味 株主総会の決議の可否を決定できる「議決権保有割合が高い株主が持つ権利」
株主総会や取締役会など 行使する機会 株主総会
経営者が思い通りに進めるためには、一定の支配権を持たなければならない。 特徴 一般的には議題を全て可決させる議決権保有割合3分の2以上が、「支配権を持っている状態」とみなされる。

経営者は思い通りに会社経営の意思決定をする目的で支配権を持つ株主(支配株主)となる傾向が見られるため、同義とみなす文脈がありますが、厳密には経営権と支配権はイコールではありません。

なお、支配権を持っていた経営者が、敵対的な買収(TOB)などによって、第三者に支配権を奪われるケースを指して「経営権を奪われる」と表現します。

議決権保有割合が過半数あったとしても、株主総会での特別決議について単独での可決が望めず、会社の経営の意思決定が思うように行かなくなる可能性があるため、議決権保有割合3分の2以上が「支配権を持っている状態」とみなされます。